だまん氏のブログ

元不動産屋→現・外資コンサル。人生の先生は本と映画。面白かった本や映画、仕事について、など日々思ったことを好き勝手に書いていきます。

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心温まる物語と見せかけて、ラスト2行からの急転直下のエンディング 『リバース』著:湊かなえ/徒然読書感想文

※本エントリーは、極力避けるよう努力しますが、多少のネタバレを含みます。ご了承ください!!!

 

最近、湊かなえブームが来ている。

『Nのために』、『リバース』、そして『夜行観覧車』を現在読んでいる。

物語の面白いスポットに入ってしまうと、時間を忘れて読んでしまう。

先が読めない展開にワクワクし、登場人物たちの物語にどんどん引き込まれていってしまう。

 

その中で、かなり衝撃的だったのが『リバース』という作品。 

 

リバース (講談社文庫)

リバース (講談社文庫)

 

 

ラスト2行での、大大大どんでん返し。

そして、物語の中で幾度となく主人公のアイデンティティーは揺らぎ続け、

最後の最後で、ようやく取り戻すことに成功する。

と思った矢先での、衝撃的エンディング。

 

衝撃度でいうと、

『桐島、部活やめるってよ』と、

『イニシエーション・ラブ』がコラボしたような印象を受けた。

 

 

ごくごく平凡なサラリーマンの主人公、深瀬。

運動ができたり、面白かったり、かっこういい人が覇権を握る学校のヒエラルキー。

深瀬は、全く無縁の世界で生きてきた。

だけど、実は密かに勉強はできた。

勉強がもっとフォーカスされれば、自分はもっとヒエラルキーの上にいるはずだ。

そんな変なプライドを持っている。

 

だが、現実にはそんな自分のことを理解してくれる友達には出会えない。

輝いている彼らを見て、卑屈になっている。

自分は自分の道をいくのだと、開きなおっている。

 

そんな彼が、大学のゼミでようやく見つけた、「自分と分かり合える友達」

それが、広沢という人物。

 

しかし、深瀬、広沢を含めたゼミの5人組で休みに別荘に遊びに行く中で、

広沢は交通事故で亡くなってしまう。

 

その事故から数年後。

深瀬の彼女宛に、「深瀬和久は、人殺しだ」という手紙が届くところから、物語は展開していく。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

謎の脅迫手紙を送った人物は、広沢のことをよく知っている人物で、

かつ、事故の時一緒にいた自分たちを恨んでいる人物だ、と推理する。

そこで、広沢のことをよく知る人物に当たることで、犯人探しを進める主人公。

 

しかし、彼のことを知ろうとすればするほど、

自分が知らなかった彼の側面がどんどん明るみに出てくる。

自分は、本当は何も知らなかったことに気づいていく。

 

結局、心優しい広沢は、自分に合わせてくれていただけなのでは?

親友だと思っていたのは自分だけで、相手は本当には迷惑がっていたのでは?

そんな疑念が頭をもたげる。

 

「親友」という、契約書もなにもない関係。

それは、お互いがそう思うことによって成り立っている関係。

そう思っていたのは自分だけで、相手にとってはそうではなかった。

主人公の中で、確信がどんどん崩れていく。

 

このあたりのリアルな心情はかなり生々しく、読んでいて心がグサグサえぐられるようだった。

 『桐島、部活やめるってよ』において、

ヒレラルキーの頂点にいる桐島の”不在”によって、自身のアイデンティティーが揺らぎ、慌てふためく生徒の姿と重なった。

桐島と同じグループに所属することによって、自分もヒエラルキーの頂点にいると勘違いしていた人たち。

 

 

しかし、最後の最後に出会った、広沢の彼女なる人物。

実は、深瀬の彼女であり、今回の脅迫手紙の仕掛け人でもあった。

彼女は、悪意があったわけではない。

ただただ、事件の真相を知りたかっただけだったのだ。

 

そして、彼女から聞かされた本当の話。

それが、彼のアイデンティティーを確かなものにしてくれた。

広沢にとっても、深瀬はやっと出会えた、自分の心許せる数少ない人間だったのだ。

 

犯人探しが、主人公深瀬の自分探しにもつながっていた。

そして、最後の最後にようやく見つけることができた”答え”。

救われたような気持ちになる深瀬。そして、僕。

 

読んでいて、「ああ、よかった。」という気持ちになった。

犯人探しも、自分探しも無事終わり、ハッピーエンドで物語は終わるのだな。

完全にそう思い、いい話を読んだなーと思っていた矢先・・・・

 

物語の中で、ずっと繰り返し繰り返し登場してきた伏線が、ここで牙を剥く。

ゼミ仲間4人の中では、広沢の死に対して一番罪が軽いと思っていた深瀬。

 

彼女から聞かされた衝撃の一言で、立場は一気に”リバース”する。

自分こそが、彼の死の原因を作った人物だった。

ここで、よーやくタイトルの意図がわかる。

 

 

ラスト2行での衝撃。

そして、小説の解説にもあったが、

「主人公が実は犯人であった」というパターンの物語はいくつもあるが、

『リバース』においては、主人公自身も、最後の最後にそれに気づく。

 

 

何重の意味で、衝撃的な作品だった。

 

リバース (講談社文庫)

リバース (講談社文庫)