だまん氏のブログ

元不動産屋→現・外資コンサル。人生の先生は本と映画。面白かった本や映画、仕事について、など日々思ったことを好き勝手に書いていきます。

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それぞれの憶測の先に、真実は一つもなかった/現代社会の恐怖と闇を描いた『白ゆき姫殺人事件』著:湊かなえ

またもや、衝撃的な結末だった。

『白ゆき姫殺人事件』

決して、奇をてらった派手な演出ではない。

納得の、しかし想定外のエンディングだった。

白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)

白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)

 

 

※以下、湊かなえさん作品の過去エントリー。

 

www.daaman-blog.com

 

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「白ゆき姫」が殺されるところから、物語は始まる 

『白ゆき姫殺人事件』

白ゆき姫の殺害によって、物語は始まる。

 ある田舎街で、会社員の三木典子というOLが刺され、黒焦げ死体となって発見される。

 

金曜の夜、送迎会を終えて帰宅する途中に事件は起きる。

容疑者は、三木典子の会社同期、城野美姫。

週の明けた月曜日から、彼女は身内が危篤と嘘をつき、姿を消している。

 

同じ会社の新人で、2人の後輩である狩野里沙子という女性が、

恋人の、記者である赤星雄治に電話をかける。

彼女の電話での話から、物語は始まる。 

 

最初は興味を示さなかった赤星も、事件の概要が明るみに出るにつけ、

他の雑誌より先に真犯人を暴こうと、取材に繰り出す。

 

そして、関係者の独白は続く・・・

 現地に入った赤星は、関係者に話を聞く。

彼女らの上司・同僚、容疑者城野の学生時代の友人、城野の生まれ育った田舎町の人々。

 

被害者である三木典子は、「白ゆき姫」と呼ばれるほどの美人。周りからの評判も良い女性

だ。

 

対する、容疑者城野は少し変わった女性。

外見は決して悪くはないが、

大人しく、自分を主張することもなく、常に一歩引く女性だった。

 

そのためか、関係者は勝手な憶測で、思い思いの話をする。

 

・美人な三木典子と常に比較され、それに耐えきれなくなり殺人を犯してしまった。

・付き合っていた上司を三木典子に奪われ、その復讐で殺した。

・彼女は呪いの力を持っているので、それで三木典子も殺された。

・小さい頃に放火を起こしたことがあり、今回も火をつけたと聞いてピンときた。

・旦那の浮気相手を殺すような家系の人間だ。いつかやると思ってた。

・父親の浮気相手に似ていたから、過去の辛い記憶が蘇ってきて、つい殺してしまった。

 

中には、城野を擁護する人物の抗議の手紙、抗議の独白も入ってくる。

しかし、それらは無視された形で、記事は作られた。

 

そして、最後は城野美姫の手記。

彼女の、三木典子に対する複雑な想いが綴られている。

しかし、三木典子を殺害したのは、彼女ではなかった。

 

テレビで、真犯人として、狩野里沙子の逮捕が報道された。

そのニュースを城野美姫が知ったところで、彼女の手記は終わる。

 

SNSの投稿から、物語の全容が浮かび上がってくる

城野美姫の独白の後、SNSのチャットがページへと物語は移る。

そこは、「週刊太陽」記者の赤星のページ。

彼が電話を受けてからのやりとりが出てくる。

 

そして、取材をもとに彼が寄稿した「週刊太陽」の二つの記事も掲載されている。

 

真犯人が狩野とわかった今、その記事の中に真実は一つもないことがわかる。

取材で聞いてきた話も、

城野美姫犯人説を裏付ける証言はそのままに、

犯人説を否定する意見は、180度曲がった形で掲載されている。

 

その後、事件に関する新聞記事も掲載される。

その中で、狩野里沙子逮捕までの経緯がわかる。

 

そして、狩野里沙子逮捕後の「週刊太陽」の記事。

前回の記事に誤りがあったことを認め、赤星記者との契約も切れたことを記載。

真犯人である狩野里沙子の動機について、徹底的に追求していくと書かれている。

 

明るみに出る、真犯人の思惑

犯人は、城野美姫ではなかった。

真犯人は、「週刊太陽」の記者・赤星宛に連絡をしてきた、狩野里沙子。

この物語を始めた人物。

最後は、彼女が匿名で書いていたブログで幕を閉じる。

 

狩野は、三木典子のことを決してよくは思ってなかった。

また、仕事のストレスから、社内で小さな窃盗を繰り返していた。

そのことを、三木に見破られていた。

 

三木典子は、狩野が出世するまで窃盗の件は内密にしておき、

出世したタイミングでその話を蒸し返し、狩野を陥れようとしていたのだ。

そのことを知った狩野は、送迎会の夜、運良く三木を殺す機会が巡ってきたため、たまたま犯行を実行したのだった。

 

 自分勝手な憶測の先に、真実は一つもなかった 

この物語を通して見えてくること。

城野美姫には、十分動機があった。

事件の翌日から姿を消していたことも、

彼女を犯人に仕立て上げるのに十分すぎる要因だった。

 

おそらく、関係者の独白の中で、城野を犯人として語っていた人たちは、

「城野美姫=犯人」

という前提で、それぞれの記憶を辿っていたのだ。

 

世の中の見方は、見る人の主観によって大きく変わる。

たとえば、

・妊婦になると、周りに妊婦が増える

・松葉杖になると、周りに松葉杖の人が増える

・車を買うと、同じ車種が周りに増える

のはよく聞く話だ。

 

ただ、実際そんなことはない。

今までだって、同じくらい妊婦はいたし、松葉杖の人もいたし、同じ車種の車は通っていた。

ただ、意識してなかったので、スルーしていただけ。

意識したことで、周りに増えたように見えるだけ。

 

その人が見たいように、世の中は見えてくる。

 

些細なことでも、城野美姫が犯人であることの裏付けのように見えてくる。

そして、SNSにより、

その勝手な憶測はさらなる憶測を呼ぶ。

元ネタがわからなくなり、いつの間にかそれが真実であるかのように語られる。

 

まさに、現代の恐怖と闇を描いた作品だ。

 

物語の最後は、真犯人・狩野里沙子のブログで締めくくられる。

そこには、彼女の動機が明々白々と綴られている。

 

SNS、そして赤星記者を利用して、彼女は世間をも騙し、犯人として追及されることから逃れようとした。

しかし、そんな彼女自身が、SNSによって自分の首を締めることになる。

なんとも、皮肉な結末だ。

白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)

白ゆき姫殺人事件 (集英社文庫)