午前十時の映画祭で、黒澤明・三船敏郎タッグの『椿三十郎』を観てきました!
それにしても、この午前十時の映画祭という企画は本当に素晴らしい。
この企画が始まったのは、僕がまだ大学生だった頃。
学生料金は500円だったので(大人料金もたったの1100円です!)、その時上映していたほぼ全作品観ました。
この企画のおかげで、「名前だけは知っているけど、観たことない映画史上の名作」にたくさん出会えました。
今回が第9回目ということですが、ぜひこれからも続いてほしいです!!!
話を戻します。
本作『椿三十郎』は、海外で勝手にパクられるほどヒットした(のちに東宝側は訴えて勝訴している)『用心棒』という映画の続編。
タイトルは、美しい椿を見た三船敏郎演じる三十郎が、自らの名を「椿三十郎」と言ったところからきています。
観終わった後、感動しすぎてしばらく席でぼーっとするくらいよかった『椿三十郎』をご紹介します。
1分でわかる『椿三十郎』のあらすじ
黒藤と竹林という、偉い2人が悪事を働いていると知った井坂(加山雄三!)
彼は、叔父であり城代(簡単にいうと城主に代わる城の管理者)の睦田に直訴しますが、彼は聞き入れてくれず、直訴状は破られてしまいます。
代わりに、大目付役(簡単に言うと、偉い役職の一つ)の菊井に言うと、彼は話を聞いてくれることになりました。
悪事を裁きたい若者を集めて、一緒に話を聞いてもらうことになりました。
しかし、その話をたまたま横で聞いていた三十郎は、疑いを持ちます。
「あまりに、うまい話すぎないか?」
「たかが若者の話を、わざわざ聞くってのは怪しい・・」
三十郎の予想は的中。
話を聞きたいというのは菊井の罠で、集めた若者たちを一気に捕まえようとしていたのでした。
菊井は、実は黒藤と竹林の側の人間だったのです。
それに気づいた三十郎のおかげで、彼らは間一髪で危険を回避。
若者たちがあまりに無知で無謀なため、彼らの企てに手を貸すことにした三十郎。
ここに、9人の若者と三十郎、10人のチームが誕生。
彼らは、菊井たちをやっつけるため、奔走します。
率直なレビューや感想など(ネタバレあり!)
観た感想や思ったことを書いていきます。
ここからはネタバレあるので、まだ観てない人はご注意ください!
文句なしに素晴らしい作品だった!
観終わった後、映画館の一番後ろの席で、しばらく余韻に浸ってしまいました。
僕の中では、百点満点に近い作品。
たった96分の中に、最高にエンタテイニングな脚本、ユニークなキャラクターたち、迫真の殺陣、それに加えてユーモアと、全てが詰まっています。
言葉にすると陳腐ですが、「最高に面白い!」の一言です。
わかりやすい物語構成と、飽きないテンポの良さ
時代劇って、固有名詞がわからなかったり、セリフが聞き取りにくかったり、当時の慣習がわからなかったりして、話がわからなくなる時ってありますよね?
しかし、ご安心ください。
本作品は、そんなのわからなくたって楽しめるくらい、驚くほど簡潔でわかりやすい。
「悪事を働いてる黒藤・竹林・菊井陣営 VS 正義のために戦う三十郎と9人の若者」
簡潔に言ってしまうと、たったそれだけの戦いです。
また、無駄がなく軽快なテンポで物語は進みます。
映画が始まって早々、9人の若者と三十郎は大勢の敵に包囲され、修羅場を迎えます。
いきなり、クライマックスの勢いです。
そこを制した三十郎が、早くも9人の若者とタッグを組んで、敵を倒しに奔走します。
始まってたった5分やそこからで、すでに緊張感がマックスになるこのテンポの良さが最高です。
「三十郎 VS 9人の若者」の構図がたまらなく愉快
物語は、浪人である三十郎が、9人の若者の企みに手を貸す形で、10人一体となって敵と戦う形で進行していきます。
しかし、ぶっきらぼうで、身なりも悪く、キツい物言いの三十郎に対して、若者たちも気分を害されます。
中には、当然反発する者もいます。
田中邦衛演じる保川は、その筆頭です。笑
微妙な対立を抱えながらも、試練を1つ1つ乗り越える過程で信頼関係が生まれていき、1つのチームになっていく。その成長ストーリーも物語の核。
この「三十郎 VS 若者」の構図が、実に愉快です。
若者たちは、とにかく無謀です。
思い立ったら吉日がごとく、考えるより前に行動してしまいます。
その結果、簡単に相手の策にハマり、何度も命の危機に直面します。
また、せっかく三十郎がお膳立てした策略も、彼らのせいで台無しになることもしばしば。
そんな彼らに対して、さすがの三十郎も怒ります。
「もうやってられない!」と切り捨てるかの態度をとります。
しかし、文句を言いながらも、なんだかんだで若者たちの手助けをしちゃってます。
三十郎の中では、若者たちの無謀ぶりに飽き飽きしながらも、その無謀さをどこかで羨ましがっているように思えました。
歳を重ねた三十郎は、物事の良し悪しの判断ができるようになっています。
しかし、その分若い彼らのように、「思ったらすぐ行動!」する無邪気さみたいなものは失ってしまったのでしょう。
きっと、若い頃の三十郎は、彼ら以上に無鉄砲だったのではないかと思います。
かつての自分を見ているようだったからこそ、嫌気がさしている風を装いながらも、彼らを微笑ましく思っていたのではないでしょうか。
だからこそ、無償で彼らの企みに手を貸したのです。
三十郎の、うちに秘めた親心みたいなものに、僕はけっこう心を打たれました。
そして、物語の最後、無事城代:陸田を救い出した彼らは、食事に招待されます。
しかし、三十郎は何も言わずに去ってしまいます。
「礼なんていらねーよ」
そんな風に言っているかのごとく、プレゼントされた良い着物を置いていきます。
その姿勢が三十郎らしくて、本当にかっこいいです。
随所に散りばめられた絶妙のユーモア!
時代劇というと、一見堅苦しいイメージを持ってしまいます。
ところが、この映画はユーモアを巧みに散りばめ、観客の笑いを誘います。
映画館で観ていたら、同じ場面で他の人も笑っていて、その一体感がなんだかよかったです。
特に面白かったシーンを、いくつか列挙します。
●敵の偵察をしている時に、若者9人が金魚のフンみたいに三十郎にくっついてくるシーンがあります。
コミカルな音楽と彼らのぎこちない動き、そして三十郎の「金魚のフンみたいにくっついてこられちゃたまらないぜ」(セリフはちょっと違うかもしれません・・)というセリフが面白かったです。
●敵に捕まっていた城代の奥さんは、なぜか緊張感なく優雅です。
このすっとぼけキャラが、また面白い。
たとえば、塀を乗り越えないと追っ手が迫ってくる緊迫した場面では、「女子にはできませんわー」と緊張感なく言ってみたり。
三十郎が、襲撃の合図に火事を起こすというと、「そんな物騒なことはだめー」と言ってみたり。
間の抜けた奥さんの言動に、いちいちズッコケてしまいました。
●捕まった敵の見張り役が、なぜか大人しく押入れに閉じ込められています。
彼は逃げる機会があったにも関わらず、前述の城代の奥さんがゆったりしていたせいで、逃げる気が失せたみたいで、押入れの中に自らとどまることを選択します。
きっと、根はいい人なのでしょう。笑
そんな彼は、若者たちの言い争いに意見する時や、一緒になって喜びの舞を踊る時に、ひょっこり顔を出します。
そして、用が終われば、また大人しく押入れに戻っていきます。
この間の抜けたキャラが笑いを誘います。
こういう随所に散りばめられたユーモアのおかげもあり、全く飽きるスキがありません。
影の支配者:室戸との緊迫感ある戦い
敵の頭脳派:室戸(仲代達矢)との戦いも、物語の大きな核。
室戸は、大目付:菊井の腹心。
しかし、そう見せかけて、実は菊井を利用してのし上がろうとしている影の実力者。
慌てふためいて、ロクな判断を下さない黒藤、竹林、菊井(その姿もまた滑稽)ではなく、実質的に支配しているのは彼なのです。
そのため、大きな枠でいうと「室戸 VS 三十郎」という映画でもあります。
室戸と三十郎との出会いは、一番最初の修羅場の時。
三十郎を見込んだ室戸は、「来たくなったらいつでも来い」と、三十郎に声をかけます。
三十郎が9人の若者の味方だと知らず、結果的に室戸は三十郎に出し抜かれてしまいます。
その悔しさから、映画の最後で、室戸は三十郎に決闘を申し込みます。
9人の弟子が見守る中、対峙する2人。
一言もセリフがなく、ただ黙って向き合う2人。
このシーンの緊張感は、凄まじかった。
そして、一瞬の隙をついて室戸を切った三十郎は、また浪人として旅立っていくのでした。
『椿三十郎』を観ようか迷っている人へ
迷っている時間がもったいないので、さっさと観るべし。
「カラーじゃないといやだ」とか、「時代劇はよくわからない」とか文句がある人も、つべこべ言わずにさっさと観るべし。
・・・と、過激発言しましたが、それくらい最高に素晴らしい作品でした!
『用心棒』を観たことがある人なら、なお観るべし。
エンタテイメントとして、これ以上の作品にはなかなか出会えません!
関連記事
三船敏郎の他の作品について書いた、下記の記事もご参考に!
【レビュー】映画『座頭市と用心棒』
『用心棒』『椿三十郎』の三十郎が、勝新太郎の座頭市と夢の共演!
設定上は別人となってますが、明らかに三十郎を意識しています。
2大ヒーローの共演って、コケる匂いがプンプンしますが、この映画では綺麗にまとまっています。
何より、三船敏郎と勝新太郎の存在感がすごすぎる作品です。