だーまんのブログ

平成生まれ・東大卒の不動産屋。人生の先生は本と映画。面白かった本や映画、ライフハック術、不動産のこと、受験についてなど、日々思ったことを好き勝手に書いていきます。

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イケてない父ちゃんが、巻き込まれてヒーローになる物語『タクシー運転手 約束は海を越えて』

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誰かのために闘う父ちゃんはかっこいい。

一般人が、事件に巻き込まれたことによって、変化し、成長し、ヒーローになる。

『タクシー運転手 約束は海を越えて』は、そんな父ちゃんの物語。

 

光州事件という重めのテーマを扱いながらも、ユーモアが随所に取り入れられており、重く感じない。

ハラハラドキドキする展開に、途中からは目が離せなくなる。

映画評論家、町山智浩さんも、すでに今年のベストに入る作品だと語る。

 

娘のために闘う父ちゃんの姿に、観終わったあと思わず拍手をしたくなる。

(ネタバレを含んでおります。ご注意ください。)  

klockworx-asia.com

 

主人公のイケてない父ちゃん

主人公は、しがないタクシー運転手、マンソプ(ソン=ガンホ)。

奥さんを病気で亡くし、まだ11歳の娘と二人暮らし。

稼ぎはあまり良くないようで、家賃を4ヶ月も滞納している。 

娘の履いてる靴も、サイズが小さくなって踵を踏みながら履いてる。

 

そんな悲惨な状況にも関わらず、口笛なんか吹いて、どこか陽気だ。

随所に人の良さが滲み出ている。

家賃を4ヶ月も滞納させてもらっているだけでなく、家主からその家賃を借りようとしたり。笑

妊婦のお客さんに対しては、お金をもらわず乗せてしまったり。

故障を直してくれた修理屋に対して、料金を無理やり値引きしたり。

 

頼られたら、「しょうがねーなー」と言いいながら助けてあげたいキャラである。

 

そして、事件に巻き込まれる

そんな彼だったが、家主の奥さんはさすがに我慢の限界。

4ヶ月分の家賃、10万ウォンを一括で払え、と言われてしまう。

 

お金のあてがない彼だったが、ある日食堂で同僚がこんな話をしているのを小耳にはさむ。

「今、上客を待たせてるんだ。光州まで行って帰ってきたら、それだけで10万ウォンくれるっていう外国人だ。」

マンソプはしれっと食堂を抜け出し、同僚を出し抜いてその外国人を迎えに行く。

 

その外国人とは、ドイツ人記者のピーター。

光州で反政府デモが起き、現地と音信不通になっていると聞いた彼は、内地に取材をするために韓国にやってきた。

通行制限になる前に連れて行ってくれという依頼に対して、事情をよくわかっていないマンソプは、ウキウキで彼を乗せて行く。

 

光州の中で本当は起こっていたこと

しかし、いざ光州へ入ると、なんだか様子がおかしい。

街中のシャッターは閉まっており、政府に対しての抗議の張り紙が貼られている。

 

病院に行った彼は、そこで大惨事を目の当たりにする。

怪我人が溢れ、病院のベットだけでは足りず、廊下に置かれた簡易ベッドでも治療がなされている。

なんと、軍が市民を攻撃しているという。

 

国民の味方である軍がそんなことするわけないと、マンソプは信じない。

しかし、実際の惨状を目の当たりにして、言葉を失う。

軍が、容赦なく一般市民に向けて銃を発砲している。そして、何人もの人が殺されている。

また、自分の娘に電話をかけようとするも、電話はすべて通信不能となっており、光州の外部とは全く連絡が取れない。

ニュースでは、市民のデモによって軍に怪我人が出ただけと、全くの嘘が韓国全土に放送されている。

 

こんなことがあっていいのか。

事実を受け入れられないマンソプ。

外部の人々が真実を知らないのだとしたら、ピーターがきちんと映像を撮り、世界に向けて発信し、真実を伝えなくてはならない。

 

しかし、ここに長居するのは危険だ。いつ、自分たちも巻き込まれるかわからない。

彼も人の親。ソウルでは彼の一人娘が待っている。

もし、ここで自分が死んでしまったら、一人残った娘はどうやって生きていけばいいのか。

 

彼は、記者を置いて、先にソウルに戻る決断をした。

  

一度は逃げるが・・・

現地の人しか知らない道を通って、難なく光州を抜けたマンソプ。

 

ふと入った昼食店で、彼は人々の話を盗み聞く。

「光州の中では、軍によってひどいことが行われているって噂よ。」

「そんなの嘘だよ。市民が軍に歯向かって暴動起こして、逆に軍のほうに怪我人が出ているんだよ。ほら、ニュースだって、新聞だって、そう言ってるだろ?」

 

手元にあった新聞を読むと、光州の惨状については、何一つも報道されていない。

 

見て見ぬ振りして、ソウルに向けて出発するマンソプだったが・・・

運転しながら、戦っている光州の人々の顔が浮かぶ。外国人にも関わらず、現地に入り、命を賭けて戦っているピーターもいる。

 

自分は、一体何をやっているのだろうか。

こんな情けない父ちゃんが、この先娘を守ってやることができるのだろうか。

 

不甲斐なくて、泣けてくる。

そして、決断した彼は、進路を変更。光州へ向けて、車を急発進させる。

ここで、僕の頭の中では完全に『ロッキーのテーマ』が流れていた。

 

闘う父ちゃん

通行制限がかかっている中、なんとか裏道を見つけて現地入りしたマンソプ。

危険を顧みず、再び光州入りした彼に対して、ピーターは問いかける。

「危険なのを承知で、なぜ帰ってきたんだ?!」

マンソプは言う。

俺は、タクシー運転手。あんたは、俺のお客さん。お客さんを目的地までちゃんと届けるのが、俺の役目だ。

 

彼は、現地のけが人の救出を買って出る。

自らのタクシーをバリゲードにして、軍の銃撃から怪我人を守る。

また、軍の追っ手がピーターに迫ってきているのを知り、急いで彼を連れて帰る。 

 

激しいカーチェイスの中、命を犠牲にして軍の追っ手を止めてくれた現地のタクシー運転手仲間のおかげで、なんとか二人はソウルへ逃げ帰ることに成功する。

 

ピーターは、無事国外へ飛ぶ。そして、光州の惨状を全世界が知ることとなる。

 

無事家に戻ってきたマンソプは、彼の帰りを待っていた娘を抱きしめる。

 

あるタクシー運転手の物語

別れ際、韓国の情勢がよくなった時、もう一度会いたいから名前と連絡先を教えてくれと言うピーターに対して、マンソプは偽名と嘘の連絡先を伝える。

 

その後、韓国から表彰を受けたピーターは、全ては自分のために戦ってくれた、あのタクシー運転手のおかげだと語る。

願わくば、会ってお礼をしたいと言うが、彼は再びマンソプと会うことなく、この世を去ってしまう。

 

なぜ、マンソプは再び彼の前に姿を現さなかったのだろうか。

国民の英雄として、多大なる賞賛を受けるはずなのに。

 

彼が、光州へ戻った時の言葉が思い起こされる。

俺は、タクシー運転手。あんたは、俺のお客さん。お客さんを目的地までちゃんと届けるのが、俺の役目だ。

あくまで、自分の仕事を全うしただけ。お礼を言われるような、たいそうなことはしてない。

きっと、そんな気持ちだったのだろう。

 

ところで、この映画の英訳は、“A Taxi Driver”となっている。

“The”ではなく、“A”である。

日本語訳すると、「あるタクシー運転手」となる。

 

特定の運転手ではない。

どこにでもいる、ごくごく普通の、あるタクシー運転手の物語。

自国を救うドイツ人記者を乗せるのも、勉強帰りの学生を乗せるのも、自分にとっては同じ仕事。

淡々と仕事をこなす彼の姿勢が、たまらくかっこよかった。

 

人は、誰かのためになら、強くなれる。

娘のために頑張る父ちゃんは、やっぱり世界最強だ。