だーまんのブログ

平成生まれ・東大卒の不動産屋。人生の先生は本と映画。面白かった本や映画、ライフハック術、不動産のこと、受験についてなど、日々思ったことを好き勝手に書いていきます。

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壮大な伏線が織りなす衝撃のラストと、未来への希望を与えてくれる1冊『さよならドビュッシー』著:中山七里

予想を裏切る壮大な結末だった。 

第8回「このミステリーがすごい!」受賞作品、中山七里さんによる『さよならドビュッシー』という作品。

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

 

 

 

簡単なあらすじ

主人公の遥は、ピアニストを目指す少女。

将来を期待され、名門音楽学校へも特待生として進学する予定。

そんな彼女と一緒にピアノを練習しているのは、天災で両親を亡くした同い年の従兄弟・ルシア。ルシアは両親を亡くしたため、遥の家で一緒に暮らしている。

だがある日、祖父とルシアが大火事に巻き込まれて亡くなってしまう。その火事に巻き込まれた遥自身も大火傷を負い、全身の手術を余儀なくされる。

幸い腕の良い医師のおかげで、外から見える皮膚はきれいにしてもらえたが、松葉杖を使わないと歩けないくらいの身体的な重傷を負う。

ピアノの道をあきらめかけた彼女だったが、ピアニストである岬洋介という人物と出会い、彼の指導のおかげで再びピアノの道を歩む決意をする。

 

そんな矢先、彼女の周りで不吉な出来事が続いて起こる。家の階段の滑り止めが剥がれやすく加工されていたり、彼女の松葉杖の留め具が人為的に壊されていたり。また、車道を歩いてる時に何者かに押され、危うく事故になりかける。

そして、きわめつけは彼女の母親の死。階段から転げ落ち、亡くなってしまう。

 

家の火事、遥の周りで起こる不可解な出来事、そして母親の死。

これらは、ただの偶然なのか。

それとも、誰かの意図していることなのか。

 

そんな状況でも、生き残った彼女らは前を向いて生きていくしかない。

遥は、学校代表として有名なピアノコンクール出場を決める。

指導者である岬洋介と共に、毎日ピアノに向かい、事件を忘れるかのように練習に没頭する。

 

張り巡らされた数々の伏線

読み始めて最初に思ったことは、表紙と物語のギャップである。

可愛らしい表紙から、明るくポップな話なのだろうと予想していたが、いきなり火事で身内が2人も亡くなる。

主人公・遥も生死を彷徨うほどの重傷を負い、リハビリのシーンなど読んでいて痛々しかった。

そこにきわめつけは、母親の死。短時間で、身内が3人も亡くなる。

 正直なところ、小説の世界とはいえさすがにやりすぎだろうと思いながら読んでいた。

 

また、主人公はピアニストを目指す少女。

当然、ピアノの演奏シーンもあれば、クラシックについてもかなり具体的なことが書かれている。

そのどちらも親しみがない身としては、大部分を流し読みしてしまっていた。

 

これらの伏線は、どのように収束していくのだろうか。

ちゃんと、納得した形で結末を迎えてくれるのだろうか。

物語の中盤まで、この疑問が拭えないままだった。

 

主人公の成長

身内の不幸、周囲からの嫌がらせ、自身の怪我などの試練が続きながらも、遥はそれらを乗り越えていく。先生である岬洋介と共に。

最初は弱気な遥であったが、少しずつ、少しずつ覚悟が決まっていく。誰がなんと言おうが、自分は自分が決めたことをやりきるという心持ちになっていく。

 

物語の最後は、決意を新たに成長した遥が臨むコンクールのシーンで終わる。

それまであまりのめり込めなかったピアノ演奏の描写だが、最後は全く違った。

遥の成長をともに見てきただけに、演奏する彼女の想いが行間から伝わり、圧巻の描写となっていた。鳥肌ものだった。

岬洋介の導きにより、彼女は大きく変化した。

 

そして、実はこの岬洋介こそが、物語の鍵を握るキーパーソン。

父親が有名な検事であり、本人も司法試験をトップで合格。

法曹界各方面から期待されていたが、本人は自身の本能に逆らえず、音楽の道へ進んだのだった。

 

事件の真相を見抜いた彼が、コンクールを終えた遥に、全ての真実を語る。

 

そして、最後の結末・・・

物語の真実。

遥は、火事で亡くなったはずのルシアだった。

 

火事の夜、たまたまお互いのパジャマを交換していた。

火事から助け出されたルシアは、全身大火傷で誰か判別もつかない姿。

パジャマから、辛うじて遥だと思った家族は、遥そっくりの顔に皮膚の手術をしてもらった。

火事で喉もやられ、まともな声も出せないルシア。

自身の術後の姿を見て驚愕するが、誰にも主張できないでいた。

 

たまたま歳も同じ、背格好に似ていたこともあり、周囲は彼女を遥だと思っている。

両親を洪水で亡くしているルシアは、身内が亡くなることの悲しさ、辛さを知っている。

生きていると信じている遥が、実は亡くなっていたと知ったら、遥の両親がどれほど悲しむだろうか。

ルシアは、遥として生きていくことを誓ったのだ。

 

最初の火事こそ、不慮の事故だった。

しかし、彼女に向けられた殺意は、正体に気づき、ルシアが祖父の遺産目当てに遥とすり替わっていると勘違いしていた家政婦の仕業。

そして亡くなった母親は、遥ではないと気づかれたルシアが、半狂乱になった母親に襲われそうになり、とっさに振り上げた松葉杖にあたり、バランスを崩して階段から落ちてしまったのだった。

 

ようやく全てが繋がった。壮大な伏線だった。

結末を知った今、全てがそうあるべきだったと深く納得できる。

 最初の大火事も、遥の周りの不可解な出来事も、身内の死も。

そして、最初は退屈だったピアノの演奏シーンも。 

 

すべてが、パズルのピースのように綺麗に繋がった。

この結末のために、あらゆる出来事が用意されていたのだ。

壮大な結末と、それに向けての張り巡らされていた伏線に、思わず声が出てしまった。

 

未来へ向けて

かなり早い段階から、岬洋介は遥の正体に気づいていた。

しかし、なぜ彼はルシアを応援することにしたのか。

 

それは、ルシアの決意を見てだった。

そう、遥としてピアニストを志すということは、すなわちルシアとの決別を意味する。

ましてや、火事で大火傷を負ったため、マイナスからのスタートだ。

ピアノの道を諦める道もあったにも関わらず、それでも彼女はピアノの道を志した。

その決意を見て、岬洋介は本気で彼女のことをサポートすることにしたのだった。 

 

全てを亡くしたルシアだったが、岬洋介との出会いによって、新たな希望を見いだすことができたのだ。

 

彼女は、最後のコンクールでは大好きなドビュッシーを演奏し、優勝を手にする。

ただし、真実が明るみに出た今、彼女はしばらく塀の中での生活を余儀なくされる可能性がある。

そうなると、ピアノともしばしお別れだ。

 

だが、その生活も一生ではない。

また会える日まで。

「さよなら、ドビュッシー。」

さよならドビュッシー (宝島社文庫)

さよならドビュッシー (宝島社文庫)