だまん氏のブログ

元不動産屋→現・外資コンサル。人生の先生は本と映画。面白かった本や映画、仕事について、など日々思ったことを好き勝手に書いていきます。

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全てが壮大なフェイクだった/人間のむき出しの欲望を痛快に描いたコーエン兄弟の代表作『ファーゴ』

アカデミー賞を受賞した『ノーカントリー』の監督であるコーエン兄弟。

彼らの名を一気に有名にした代表作が、こちら。

ファーゴ (字幕版)

ファーゴ (字幕版)

 

冒頭、“This is a true story...”(これは実話である)で始まるこの映画は、アメリカのミネソタ州ファーゴで起こった事件を題材にしている。

お金に困った男の、ほんの些細な出来心から全ては始まった。

ボタンのかけ違いから、最終的には事件に関係ない人間も含めた、6人もの死者が出た悲惨な事件。

こんな嘘みたいな出来事が、この現実で本当に起こるのだろうか・・・

 

観終わって、そう驚愕した僕は、まんまとコーエン兄弟のトリックに引っかかっていた。

 

 

物語のはじまり

お金に困った自動車販売店の営業マン、ジェリー・ランドガードは、妻ジーンを偽装誘拐させて、お金持ちの義父からお金をせしめる計画を立てる。それを、小男で小心者のカールと、無口で非情な大男:ゲアという2人のチンピラに依頼する。

彼らはジーンの誘拐に成功するが、車にナンバープレートをつけてなかったことから、途中警官に呼び止められる。誘拐がバレそうになったため、ゲアはあっさり警官を射殺する。

死体となった警官を処理しているところを、たまたま車で通りかかったカップルに見つかり、ゲアは2人も射殺する。

 

ジーンの父親ウェイドは、身代金の支払いになかなか素直に応じない。最終的に身代金を渡すことに納得するが、娘婿のジェリーを信じられない彼は、自らカールたちにお金を渡しにいく。

ジェリーが来ると思っていたカールは、話が違うとウェイドを射殺。自身も顔を銃で撃たれながらも、身代金を奪ってアジトへ戻る。

アジトへ戻る途中、身代金の額が想定以上に多いことに気づいたカールは、大部分を隠して、残りをゲアに渡す。これで2人は任務完了と思われたが、ジェリーから奪った車の処分で喧嘩になり、カールはあっさりゲアに殺されてしまう。

 

事件の解明へ、警察も動き出す

さて、事件の真相を追いかけていたのは女性署長のマージ。彼女は妊婦でありながら、果敢に捜査を進めていく。事件に使われた車種を割り出し、ジェリーの店からその車が盗まれていることに気づいた彼女は、彼を問い詰める。最初は強気に言い逃れていたジェリーだったが、言い逃れできなくなり、協力するフリをして逃走してしまう。

 

一方、街の人への聞き込みからアジトを割り出したマージ。無防備だったゲアを追い詰め、彼の足を撃って逮捕に成功する。ジェリーの方も、隠れ家があっさり見つかり、捕まってしまう。ジェリーの妻ジーンはというと、アジトに捕まっている間に、騒いでいたことでゲアに殺されてしまっていた。

 

こうして、お金欲しさにジェリーが始めた偽装誘拐事件は、彼自身の逮捕だけでなく、彼の妻と義父の死につながってしまった。

 

捕まったゲアを乗せた車中、マージは彼に語る。

「こんな少しのお金のために、なんでこんなことをするのかわからない。」

「人生には、お金より大切なものがある。」

それを無表情で聞いてるゲア。

 

マージの夫:ノーマは、売れない画家。映画の最後、ノーマは彼の作品が3セント切手(実用される機会はあるのだろうか?)の絵柄に採用されたと、マージに報告する。子供の出産を2ヶ月後に控えた2人。些細な幸せを噛み締めている2人を映しながら、映画は幕を閉じる。

 

全てが壮大なフェイクだった

 実は、この映画はフィクションなのだ。

冒頭の“This is a true story”ということ自体が、壮大な演出だった。

何を隠そう、この映画はコメディーに分類される。

 

振り返ると、“実話”という前提で悲惨な事件を描きながらも、起こる物事がどれも現実離れしており、途中から半ばギャグ映画を見ているような気分になる。

この悲惨な事件を通して見えてくるのは、人間の欲望と浅ましさ。

 

・借金返済のため、真面目に頑張って働けばいいものを、偽装誘拐という手段で解決しようとしたために、大切な妻と義父を亡くし、自らも牢獄入りしたジェリー。

・身代金を払うことをためらい、自分の娘婿を信じることができなかったために、自ら命を落とす結果となったウェイド。 

・身代金の大半が自分のものになるにも関わらず、車のことでゲアに対して譲れなかったために、殺されてしまったカール。

 

ほんの少し、自分を抑え、理性的に考えることができたなら。

こんな事件にはなっていなかっただろう。 

 

また、ウェイド以外の人物を殺した一番非常な男ゲアには、死という簡単な逃げ道は与えられない。

彼は塀の中で、自身の罪を償うこととなった。

 

“強い女性”が事件を解決へと導く

事件を解決したのは、妊婦でありながらも、銃を片手に果敢に挑んでいったマージ。

 

彼女の周りは、頼りない男ばっかりだ。

・一緒に現場に駆けつけた捜査官は、マージが次々と手がかりを見つけていく中で、何一つ貢献していない

・かつての同級生ヤナギタは、孤独に耐えきれず、奥さんと死別したという嘘をついてまで、マージの同情を買おうとする

・旦那のノーマは、売れない画家。まともに働いているシーンは一つもない。いつもマージの警察署に来て、一緒にランチをしている

 

頼りない周囲の男たちのおかげで、マージの男らしさがより際立つ。

だか、彼女は仕事ができない男性陣を決してバカにはしていない。

誰に対しても、フラットに接している姿が描かれている。

 

これは、自分の妻を偽装誘拐の対象にし、普段は弱気なのに、なぜかマージ(女性)に対しては虚勢を張り、女性をバカにしているジェリーとは対象的だ。

 

 

ゲアに向けられた最後のマージの言葉は、映画を観ている我々にも問いかけているようだ。

「こんなちっぽけなお金のために、なんで人を殺したのか。」

「人生には、お金より大切なものがたくさんある。」

 

欲望むき出しの人間の浅ましさが、これでもかと痛快に描かれている。

コメディーと知った今、改めてもう一度観てたいと思える作品だ。 

ファーゴ (字幕版)

ファーゴ (字幕版)