だまん氏のブログ

元不動産屋→現・外資コンサル。人生の先生は本と映画。面白かった本や映画、仕事について、など日々思ったことを好き勝手に書いていきます。

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【書評】『アメリカから〈自由〉が消える【増補版】』堤未果/自分の頭で考えることを放棄してはいけない

「自由の国アメリカ」

 小さい頃アメリカに住んでいた僕が、アメリカに対して持っているイメージです。

 

しかし、今のアメリカからは、自由が消え去ろうとしています。

そんなアメリカの実態を、国際ジャーナリストの堤未果さんが描いた本がこちら。

 

自由の国アメリカは、9.11テロ以後、大きく変わったと言います。

「テロ撲滅」の名のもとに、アメリカの自由が脅かされています。

冷戦下のソ連を題材に、全てが監視下におかれた国家を描いたジョージ=オーウェルの『1984』という作品。

その世界に、じわじわと近づいてるそうです。

 

今のアメリカには、僕たちが憧れた自由はあるのでしょうか。

膨大な取材を基に書かれたこの本を通して、今のアメリカのリアルな姿を知ることができます。

同じようなことは、いつ日本で起きてもおかしくありません。

自分たちの未来を考える上で、大きなヒントになる1冊です。 

 

「テロ撲滅」の名のもとに、大きく変わったアメリカ社会 

2001年に起こった9.11テロ以後、アメリカは大きく変わったと言います。

その時に、議会を異様なスピードで通過した『愛国者法』という法案があります。

 

この法律は、

政府は国内でやりとりされる電話、Eメール、ファクス、インターネットなど全通信をチェックして、テロ予備軍をそれが実行に移される前段階で捕まえることができるようになる

というもの。

 

次のテロへの恐怖から、スピード可決したこの法案でしたが、国民はおろか、国会議員さえも、きちんと内容を把握していなかったそうです。

 

「事前にテロを防ぐことができる」と人々が期待したこの法案。

しかし、それは同時に、全国民のプライバシーが侵害される可能性を含んでいたのです。

 

今のアメリカで実際に起こっていることとは?

今のアメリカで、実際に起こっている事態を具体的に描いています。

飛行機の搭乗拒否リスト

政府の持つ〈搭乗拒否リスト〉に載ってしまった人は、飛行機に乗れなくなります。

危険人物をリストアップすることで、飛行機でのテロを防ぐことができます。

しかし、問題は、

一度リストに入れられたら最後、〈何故自分がリストに乗せられたか〉については、決して知る術がない

ことに加え、

一度リストに名前が載せられたら最後、一般市民にはそこから削除してもらう術はない

という危険性を含んでいます。

 

9.11以前はたった「16人」しか載っていなかったこのリストですが、その後、内部告発によって衝撃の事実が明らかになります。

なんと、リストの中には生後間もない赤ちゃんをはじめ、10万人以上のデータがあるそうです。

そして、中には同姓同名で、人違いの場合も多々あるようです。

街中に溢れる監視カメラ

テロを未然に防ぐという名目で、街中に監視カメラが設置されることになりました。

一見、それは街のセキュリティを高め、人々に安心を与えているように思えます。

 

しかし、本の中では、身に覚えのないことで突然警察に連れて行かれたある女性の話が載っています。

彼女は、4時間近く尋問を受けることになったそうです。

それ以来、常に「自分の行動は怪しくないか?政府に疑われないか?」と考えながら生活するようになったそうです。

 

また、文中に出てくる論文によると、

政府に監視されていると認識した人々は、自分の意見が大多数の人々と違っていた場合、それを隠す傾向が出てくる

と述べています。

街中の監視カメラは、安全を与えてくれるかわりに、人々の自由な生活を脅かす存在となったのです。

増え続ける逮捕者

 また、『愛国者法』の影響は、ジャーナリストたちにも波及していると言います。

アメリカでは、当局調査や召喚状を受けるジャーナリストの数が年々増えている。

 

同様のことは、ネット社会でも起こっています。

ある人気ブロガーが、政府の要請した資料提出を拒んだということで、投獄される事件が起こりました。

その資料とは、そのブロガー自身が撮影した、イラク反戦デモのビデオ・テープでした。

 

発信をする立場の人が逮捕されていくのを見て、ジャーナリストをやめる人や、少数派意見の発信をやめる人が増えることは、ジャーナリズムの危機につながっています。

 

それでもまだ、希望は残っている

9.11後のアメリカ社会で、「テロの撲滅」の名の下、いかに個人の自由が奪われてきたかを見てきました。

確かに、今のアメリカを見ると、「自由の国アメリカ」とは言えない社会になりつつあるのが見て取れます。

 

しかし、この本の最後に、少しの希望も紹介されています。

1人の活動から始まった大きな動き

『愛国者法』の制定に反対した、ある女性活動家がいました。

まだ国民の誰もがよく法律の内容を理解していない段階で、彼女は危険性を感じ、ローカルメディアに訴えかけ、仲間とともに啓蒙活動を続けていきました。

 

それが広まった結果、

三二二の地方自治体と四つの州が「『愛国者法』反対決議」を可決した

反対決議をした自治体では、住人が持つ憲法修正第一条〈言動の自由〉の権利を守ること最優先し、たとえ連邦政府が住人の情報収集に協力するよう求めてきても、地元警察はいっさい応えないことを表明している。

彼女の草の根の小さな活動が、大きな成果をもたらした一例です。

 

まとめ:「自分の頭で考えること」を放棄してはいけない

この本の中に書いてあることは、堤未果というジャーナリストの目を通して描いたアメリカ社会です。

決して、それが全てではありません。

『愛国者法』によって、未然に防げたテロだってあるかもしれません。

 

ただし、問題は、線引きがとても難しいことです。

行き過ぎた監視は、テロ防止に効果があるかもしれませんが、同時に人の自由を奪う可能性もあります。

逆に、全く無法の状態だと、自由と引き換えに、社会の混乱につながります。

 

自由と監視は、表と裏です。

どこまでがセーフで、どこからが行き過ぎたラインなのか?

簡単に答えが出せる問題ではありません。

だからこそ、誰かに判断を委ねるのではなく、自分たちで考える必要があります。

 

この本を通して一番感じたとは、

「自分の頭で、考えることを放棄してはいけない」

です。

 

「人は、閉鎖的な状況に置かれると、権威者の言うことに従いやすくなる」

それを証明した、有名なミルグラムの実験があります。 

詳しくはリンク先を読んでいただきたいのですが、

「人は究極の環境下に置かれると、平気で人を殺すこともある」ことを示しています。

 

テロの恐怖によって人々が思考停止し、『愛国者法』は制定されました。

戦後の貧困という状況に置かれたからこそ、人々はヒトラーに希望を見出しました。

『愛国者法』は議会を通しましたし、ヒトラーも選挙で選ばれています。

どちらも、正当な手続きに則っているのです。

 

ただ、自分たちで考えなかったからこそ、悲劇につながったのです。

 

「自由の国アメリカ」の今の状況を知ることで、

「不透明な時代だからこそ、自分で考えることをやめてはいけない」

ということを、改めて考えさせてくれる本でした。

   

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