太平洋戦争について、どれくらい知っていますか?
保坂正康さんの『あの戦争は何だったのかー大人のための歴史教科書』は、戦後60年というタイミングで、改めて太平洋戦争を振り返った本です。
この本の書き出しはこうです。
「太平洋戦争とはいったい何だったのか」、戦後六十年の月日が流れたわけだが、未だに我々日本人はこの問いにきちんと答えを出していないように思われる。
「あの戦争とは何だったのか」
改めて、あの戦争について問うた1冊です。
僕は、受験科目では日本史を外しました。
そのため、仮にも日本の最高学府を卒業しながらも、この問いに対して明確な答えを持っていません。
そして、僕と同様に、いまいちよくわかっていない人も多いはずです。
その原因を、保坂さんはこう解釈しています。
これは一つに、いわゆる平和教育という歴史観が長らく支配し、戦争そのものを本来の"歴史"として捉えてこなかったからだろう。
しかし、歴史は繰り返します。
あのような戦争が再び起こるかどうかはわかりません。
しかし、あの戦争を知ることなしに、同じ失敗を避けることはできません。
この本の目的は、
「あの戦争は何を意味して、どうして負けたのか、どういう構造の中でどういうことが起こったのか」
を紐解くことです。
学校で学んだことを忘れてしまった人でもわかるくらい、丁寧に書かれています。
太平洋戦争を見直すことを通して、これからの日本を考えるためのヒントとして、ぜひ手に取ってみてください。
初心者でも、太平洋戦争について俯瞰できる1冊
この本は、旧日本軍の体制についての解説に始まり、終戦直後まで網羅的に描いています。
1つ1つの描写が丁寧なため、初心者でも全体像がわかるようになっています。
旧日本軍の体制から始まる
特に、最初の章は旧日本軍の体制についてページが割かれています。
体制を知ることで、いかに軍部(軍の政策や戦略を決めていく中枢部)が力をつけていき、独自で物事を決めていくようになった背景について理解ができます。
きちんと学んだことのない旧日本軍の体制を知ることで、開戦に至った経緯・理由を理解できるようになります。
出来事だけでなく、背景についての理解ができる
歴史を学ぶといえば、出来事の羅列のイメージが強いです。
しかし、この本では、出来事の背景や、当時の人々が考えていたことまで掘り下げて描写されています。
たとえば、二・二六事件以後、天皇は頑なに意思表示をしなくなりました。
彼は、事件が起きた時、「断固、青年将校を討伐せよ」と発言しました。
そのことで、多くの命が亡くなりました。
彼は自身の発言力の大きさを知り、それ以後明確な意思表示をしなくなります。
その時、天皇は何を考え、なぜそのような行動をとったのか?
著者は、彼の独白録まで追いかけ、彼の心境について描写しています。
日本が負けた理由について、考えてみる
なぜ、日本は負けたのでしょうか?
この本を通して分かる事実について、いくつか書いていきます。
圧倒的な戦力の差に対する甘い見込み
まず、日米の圧倒的な戦力の差についての、あまりに甘い読みがあります。
太平洋開戦前、陸軍省の出した試算によると、日本とアメリカの戦力比は1対10だったそうです。
しかし、
戦争開始以降の日本の潜在的な国力、また太平洋戦争にすぐに動員できる地の利も考慮すれば、「一対四」が妥当な数字だと判断し、改めて東條に報告がなされた
東條はその数字を、「物理的な戦力比が一対四なら、日本は人の精神力で勝っているはずだから、五分五分で戦える」
1対10の戦力差を、具体的な根拠もなく「精神力で勝つ」と判断してしまったのです。
戦場の実態を把握しようとしない軍部
戦況について、正確に把握しようとしなかったことも要因です。
そのため、間違った情報が国民に対しても発表されていました。
なぜ、そうなったのでしょうか?
背景には、陸軍と海軍の対立がありました。
大本営「陸軍報道部」と「海軍報道部」が競い合って、国民によい戦果を報告しようと躍起になっていた。
やがてそれがエスカレートしていき、悪い情報は隠蔽されてしまう。
そして虚偽の情報が流されるようになっていく。
結果的に、国民だけでなく、軍部のほうでも正確な情報を把握できていませんでした。
戦況を正確に把握できなかったために、大敗を喫した戦いも数多くありました。
対して、アメリカのスタンスは全く違います。
戦果の正確な把握のために、必ず戦闘部隊とは別の「確認部隊」がわざわざ前線にまでついていくことになっている。
そこで、時には写真や映像を撮り、記録を残して、事実に近い戦果を司令部に報告する。
わざわざ前線に部隊を送り込んでまで、正確な戦果を確認しようとしていたのです。
そもそも、目的があいまいであった
この戦争は、目的が曖昧なまま進んでいきました。
軍部は、
「この戦争はいつ終わりにするのか」をまるで考えていなかった
当たり前のことであるが、戦争を始めるからには「勝利」という目標を前提にしなければならない。
その「勝利」が何なのか想定していないのだ。
「敵を倒す」のが目的なのは明確ですが、何をもって「敵を倒したことになるのか?」
目的が明確では、舵取りが不安定になります。
戦時中の日本の動きを見ていると、大局を持って戦いを進めたというよりも、場当たり的に対処しているように見受けられます。
こういった構造のために、日本は敗戦へと向かっていったのです。
改めて、あの戦争は何だったのか
この本を読み終えて感じたことは、
「あの戦争は、良くも悪くも、日本人らしい」ということでした。
「日本人らしい」という表現も曖昧ですが、
●圧倒的な武力の差がありながら、精神力でなんとかしようとする
●実態を正確に把握しようとせず、悪い情報は隠蔽する
●目的が曖昧なため、全体を見れず、局所的な対応に終わってしまう
という点は、今の日本社会でも見受けられる姿勢です。
(もちろん、日本だけに限った話ではないですが・・)
歴史は繰り返します。
あの戦争のこと、そして敗戦の理由を知ることで、少なくとも同じような道を辿りそうになった時に、その違和感に気づけます。
著者も、こう言っています。
本当に真面目に平和ということを考えるならば、戦争を知らなければ決して語れないだろう。
ビジネスでも、恋愛でも、何でも、過去の失敗から学びます。
同じように、自分たちのより良い未来について考えるために、改めてあの戦争から学ぶことには意義があります。
そのきっかけの1冊として、この本は最適な教材です。
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