2005年作『anego』と、2013年作『ラストシンデレラ』
2作品ともに、婚期を逃した女性ヒロインが、恋に仕事に奔走する物語。
主演はどちらも篠原涼子。
物語や設定に多くの共通点があるこの2作品ですが、明確に異なる点がいくつかあります。
この違いから、作品が放送された2005年→2013年にかけた10年弱の間に、日本社会に起こった変化を見ることができました。
「その時代に流行ったドラマから、当時の日本社会の風潮を読む」
ちょっと論文っぽい、そんな考察をしてみたいと思います。
『anego』と『ラストシンデレラ』の共通点
最初に、この2つのドラマの共通点を見ていきます。
共通点はけっこう多く、ざっとこんな感じでしょうか。
ヒロインのキャラクターとして、
・仕事に対して、人並み以上に一生懸命
・職場では割と出世しており、周りから信頼されている
・恋愛はしばらくご無沙汰である
・女を半分捨てている
・素直で、まっすぐで、正直すぎる性格の持ち主
また、物語の展開としては、
・2人の男性の間で揺れ動くヒロイン
・1人は自分と年齢も近く、社会的にしっかりした男性
・もう1人は、突然現れた、一回りも年齢が下のイケメン男子
不器用でまっすぐな主人公が、女としての人生、仕事人としての人生などなど、悩みながら、ぶつかりながら、物語は進行します。
ちなみに、視聴率をwikipediaで調べてみると
・『anego』平均視聴率:15.7%/最高視聴率:17.5%
・『ラストシンデレラ』平均視聴率:15.2%/最高視聴率:17.8%
と、どちらのドラマもそこそこに成功したことが見て取れます。
『anego』と『ラストシンデレラ』の相違点
次に、2作品の違いについて見ていきます。
同じようなストーリーでありながらも、大きく異なる点が3つあります。
以下、それぞれについて見ていきます。
主人公の年齢の違い
『anego』の主人公・野田奈央子は32歳(30代前半)ですが、
『ラストシンデレラ』の主人公・遠山桜は39歳(40歳手前)です。
『anego』の中で、主人公野田奈央子(篠原涼子)は、
「結婚適齢期を逃しており、女性としてかなりヤバい」
という扱いをされています。
彼女の務める会社には、彼女より年上の女性社員がほぼ登場しません。
派遣社員は3年で辞めるため、それまでに結婚相手を見つけるのがゴール。
一般職の女性に対しては、寿退社を推奨している空気があります。
今なら間違いなくセクハラ発言のオンパレードです。
その彼女が、結婚を焦りながらも、20歳前半の男子と恋の駆け引きをする。
当時としては、20歳前半の男性と恋愛するのは、30歳前半がギリギリのラインだったのではないでしょうか。
対して、『ラストシンデレラ』での主人公は39歳。
彼女も、『anego』同様に20代前半の男性と恋に落ちます。
20代前半の男性と恋に落ちるヒロインの年齢設定として、ギリギリのラインが40歳手前まで引き伸ばされています。
たった数年の違いですが、30代前半と30代後半では、人生のステージで考えると重みが違います。
母親の存在感の違い
『anego』では、両親(特に母親)の存在感がかなり大きいです。
奈央子の母親は、娘の結婚に相当執着しております。
一流企業に就職できた時は、「これで良い結婚相手を見つけることができる!」と喜びます。
頻繁に電話してきて、結婚はまだかと迫ったり、勝手に家に上がって掃除をしたり。
お見合いを自らセッティングした後は、しつこく2人の進展状況を確認します。
対する『ラストシンデレラ』では、母親は一切画面に出てきません。
弟は重要キャラとして出てきますが、お母さんとは電話で話すくらい。
固有名詞もありません。
主人公の人生に、母親は一切干渉してきません。
主人公の職業の違い
『anego』の主人公野田奈央子は、一流企業のバリバリ仕事ができるキャリアウーマンでありながら、一般職です。
当時としては、女性の総合職は相当に珍しかったのでしょう。
画面に出てくる女性社員の多くは、派遣社員です。
総合職の女性が一瞬だけ登場しますが、彼女は見るからに高慢ちきで、なぜかイライラ怒っていました。
完全にステレオタイプですね。
職場では、一般職の女性が試験を受けて、総合職になることを「性転換」とまで言って揶揄しています。
(今なら100%セクハラですね)
対する『ラストシンデレラ』の主人公・遠山桜は、有名美容室の副店長。
まもなく店長にもなろうかというポジションです。
男性と、バリバリ同じ土俵で戦っています。
美容室内にも、同じようにバリバリ働く女性社員もたくさんいます。
2作品の違いから見える日本社会の変化
上記3点から、2005年から8年後の2013年にかけての、日本社会の変化が見て取れます。
一言で言うと、
「女性の社会進出と、それに伴う晩婚化」
です。
(ものすごく当たり前の結論になってしまい恐縮です)
『anego』が放送された2005年。
当時は、女性は一般職として働き、早々に寿退社するのが良しとされていました。
女性の人生における結婚の比重が非常に大きく、30歳を過ぎたら適齢期を逃したと思われていました。
世間体を気にする親世代は、当然娘の結婚事情にも首を突っ込むわけです。
それが『ラストシンデレラ』が放送された2013年頃になると、30代半ばを越えてなおバリバリ働く独身女性はわりと当たり前になります。
結婚だけが女性の人生のゴールではなく、仕事に人生をかける生き方もかっこいいとされています。
あくまで僕の予想ですが、『ラストシンデレラ』のヒロインが30歳前半だったら、そこまでヒットしなかったのではないでしょうか。
30歳前半の女性と、20代前半の男性の恋愛は、2013年当時はそこまで珍しいものではなかったはずです。
「40歳を目前にしたヒロインが、仕事を頑張りながらも恋をする」という設定が、同年代で仕事をバリバリ頑張っている、あるいは将来自分がそうなる可能性を(多少なりとも)予見していた人の共感を呼んだのではないでしょうか。
それが、高い視聴率につながったと考えます。
たかが8年、されど8年。
『anego』と『ラストシンデレラ』という2本のドラマを観たことで、この間に社会に起こった変化を、はっきりと見て取ることができました。
最後に一言!
何の気なしに観た2本のドラマでしたが、たくさん発見があり、不覚にも面白かったです。
2作品を比較した結果はものすごく当たり前の結論でしたが、頭で分かっているのと、肌感覚として実感があるのとでは全然違います。
ほんの15年前の作品ですが、『anego』の中では、今聞くとかなり際どい、というかアウトのワードのオンパレードです。
これが普通にテレビで放送されて、受け入れられていた時代があったのだと、ちょっと衝撃を覚えました。
ドラマの制作サイドは作品をヒットさせるため、社会の風潮に対して誰よりも敏感になっているはずです。
そう考えると、ドラマを通して、その時代の社会風潮を知ることができますね。
この流れで行くと、あと数年したら、
「50歳に近いヒロインが、20歳前半のイケメンと恋をする」
そんな作品がヒットするのかもしれません。
ちなみに、『ラストシンデレラ』のちょうど一年前に、『最後から二番目の恋』という小泉今日子主演のドラマが放送されました。
こちらも同じく、結婚を諦めかけた50歳手前の主人公の物語。
ただし、恋する相手は年下のイケメンではなく、自分と同年代の中井貴一。
ドラマの中で、小泉今日子が10歳下の坂口憲二と恋に落ちる場面もあったので、それが数年後にはさらに10歳年下になっていてもおかしくありません。
「ドラマを通して、その時代の社会を見ることができる」
今までドラマはあまり観てきませんでしたが、こういう考察ができると思うと、ドラマの見方もちょっと変わってきますね。