作家、音楽家、映画監督とマルチに活躍する辻仁成さん。
彼が小学生〜大学生の頃に出会った、ちょっと変わった友人たちについて書いたエッセイ『そこに僕はいた』を読みました。
辻少年の親は転勤族だったため、東京→福岡→北海道と少年時代を過ごしました。
その各地で出会った友人たち。
彼はいいます。
小学生のときというのはどうしてあんなに変な奴が多いのだろう。
振り返ると小学校時代ほど変な奴が溢れていた時代はない。奇人変人のオンパレードなのである。
大人になるとだんだんまともになっていき普通になってしまうのが残念だ。
人々が子供の頃のままだったら社会はもっと純粋でもっと感覚的でもっと愉快だったはずである。
事実は、小説よりも奇なり。
登場する友人たちは、「本当にいたのか?!」ってくらい、一風変わっています。
笑いあり、涙あり。子供の頃の純粋な、それでいてもどかしい気持ちを思い出させてくれる素敵なエッセイ集です。
辻少年の周りにいた“変な友人たち”
このエッセイに登場する、特に印象に残った“変な友人たち”について紹介します。
ケンカ友達のシャーマンとクニヤン
僕にはケンカをするような友達が今までいなかったので、この2人のエピソードには引き込まれました。
とにかくよく喧嘩をした。暇さえあれば、僕らはなぐりあっていた。
「どの飛行機が一番速いか?」というくだらない議論で、つかみ合いの大げんか。
しかし、喧嘩するほど仲がいいものです。
ある日、シャーマンが家庭の事情で学校に来れなくなったら、辻少年とクニヤンは毎日給食のパンを届けたそうです。
辻少年の中で、一番心に残っていたのが喧嘩友達の2人でした。
しかし、この話には後日談があります。
大人になったある日、取材で福岡に行った時に、クニヤンと再会するという企画があったそうです。
しかし、結局クニヤンは辻仁成のことを覚えておらず、会えないと断られてしまいます。
そんなものかもしれませんが、ちょっと寂しい結末でした。
義足のあーちゃん
小学生の頃は、みんなと違うだけでイジメの対象になったものです。
そんな辻少年には、義足のあーちゃんという友人がいました。
最初は一緒に遊ぶことを煩わしく思っていた辻少年でしたが、だんだんと心を通わせていくようになります。
子供って、本当に純粋ですよね。
そんなある日、あーちゃんが足をなくしたきっかけを聞くことになります。
あーちゃんは猫を助けようとして線路に入り、走ってきた電車に足を轢かれてしまったことを話してくれます。
その話を聞いた辻少年は、返す言葉を無くします。
しかし、
ただ、何故かあーちゃんが凄く好きになりはじめていたのである。
人と違うことは、イジメの対象になります。
しかし同時に、そんなのどうってことないくらい、仲良くなれるのも子供の素直さですね。
家族のために新聞配達をする少年
家庭の事情で、新聞配達をする少年がいました。
辻少年たちが遊んでいる時に彼を見つけると、「敵だ!」と言って石を投げていました。
それは、いじめたかった訳ではありません。
彼に対して興味と尊敬の念があったからこそ、あまのじゃくの行動を取ってしまったのです。
投げられた石を投げ返すことなく、じっと見返す新聞配達の少年。
彼の存在にショックを受けた辻少年は、ある日思い切って自分も手伝わせてくれとお願いします。
それを聞いた新聞配達の少年は、嬉しそうにいいます。
投げださんで続ける自信があるっちゅうなら、話をつけてやってもよかたい。
ただな、いい加減な気持ちでやるとやったら、俺がゆるさけんね。
結果的に、その時は父の反対で新聞配達はできずに終わりますが、高校生になった時にそのチャンスがやってきました。
想像以上のしんどさを感じながら、辻少年の胸の中には、あの日の少年に言われた言葉が鼓動していたそうです。
知ったかぶりのゴワスくん
ゴワスくんは、本当に変わった奴です。
転校生だった彼は、初日からいきなりシェーカーでコーヒー牛乳を作るような変人。
彼はやたらと知ったかぶりをするので、だんだんクラスのみんなから疎遠になってしまいます。
(彼の話を読みながら、謎に知ったかぶりをする友人の顔が、何人か浮かんできました)
ある日、彼の知ったかぶりが「調子に乗っている」ということで、上級生に目をつけられてしまいます。
学校の裏でボコボコにされているゴワスを見て、放っておけない辻少年たち(あとクニヤンとシャーマン)は助けに行きます。
無事勝利をおさめた時、ゴワスくんはいいます。
「この学校の正義はやっぱり、俺たち四人でまもらないかんたいね」
ここまで図々しい姿勢は、逆に気持ちいいですね。
硬派すぎるチャチャ先輩
チャチャ先輩に関するエピソードは、このエッセイの中で一番笑ったお話です。
高校時代、柔道部に所属していた辻少年。
彼はとことん硬派だったそうです。
その彼が一番憧れていたのが、どこまでも硬派なチャチャ先輩。
物語は、チャチャ先輩たちの最後の大会の時のこと。
試合前の待機中に、チャラい先輩が、この間寝た女性との話をしていました。
それを近くで聞いていたチャチャ先輩は、あまりに硬派過ぎて、その時初めて子供ができる仕組みを知ったそうです。
その後、試合に臨むチャチャ先輩でしたが・・・
試合開始後、一分で寝技にもちこまれ、何を想像したのか、下半身を押さえたまま、敗れてしまったのである。
思わず笑ってしまいました。
今どき珍しいくらい硬派だったチャチャ先輩。彼は結局、警察官になったそうです。
少年時代にタイムスリップさせてくれる物語
辻少年の周りにいた変な友人たちを想像しながらも、自分の過去も振り返っていました。
育った環境や境遇は違うものの、子供の頃に考えていたことや、やっていた遊びは似ているものがあります。
読みながら、そういったことを少しずつ思い出してきました。
好きな子を、わざといじめてみたり。
毎日のように、友達と校庭で走り回って遊んだり。
そういった楽しい思い出とともに、まだ世の中のことをよく分かっていなくて、もどかしかった気持ちも思い出しました。
純粋で、まっすぐで、何かを我慢することもなく。
だからこそ、あの頃は変わっている奴が多かったのでしょう。
大人になるにつれて、少しずつ忘れていってしまった気持ちを、このエッセイに出てくる友人たちが思い出させてくれました。
辻仁成さんの“他者を見る目”に感動する作品
この物語は、おそらく辻仁成さんが30歳そこらで書いている作品です。
ということは、今の僕とそんなに年齢的には変わりません。
しかし、自分の過去を振り返ってみましたが、そんなに鮮明に友人のことは覚えていません。
せいぜい、数人。しかも、ほんの小さな出来事です。
「自分の少年時代は、つまらないものだったのかなー」と思って最後の解説を読むと、解説を書いているその人自身も、僕と同じことを感じていたようです。
解説には、こう書いてあります。
ためしに小学生の頃のことを思い出してみてもらいたい。
何人の友達の名前と彼らの家の様子などを思い出すことができるだろうか。
確かに、僕はエッセイを書けるほど、たくさんは浮かんできません。
その点で辻仁成は、普通ではない。
・・・・
小説を読んでいるような錯覚を覚えるのは、登場人物があまりに鮮やかに活写されているからにほかならず、作者は少年から他者というものに深い関心を寄せていたことをうかがわせる。
今の僕らの日常も、辻仁成さんの目を通すとまた景色が見えるのかもしれません。
そんな視点を小さい頃から持っていた辻仁成さんは、小説家になるべくしてなったのでしょう。
1つ1つのエッセイはほんの数ページですが、すべてにもれなくユニークなエピソードが詰まっています。
「そういう奴いたいた!」と共感しながら、自分の“あの頃”に想いを馳せてみてはいかがでしょうか?
以上、だーまん(@daaman-daaman)でした。
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