だまん氏のブログ

元不動産屋→現・外資コンサル。人生の先生は本と映画。面白かった本や映画、仕事について、など日々思ったことを好き勝手に書いていきます。

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『ジョーカー』と『キングオブコメディ』/現実と妄想とのあいまいな境界

先日、日比谷のTOHOシネマで『ジョーカー』観てきました。

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3連休最終日の18時からの回にも関わらず、場内は満席。

日本では、前回の『ダークナイト』(2008年)は興行収入的にあまり成功しませんでした。

国内での興行収入は、たったの16億円ほど(wiki参照)

参考までに、

・『君の名は』(2016年)・・250億円

・『千と千尋の神隠し』(2001年)・・・308億円(歴代一位)

 

それにも関わらず、今回は公開たった12日ですでに20億円を突破。 

www.cinematoday.jp

 

前作『ダークナイト』の功績ですかね。

 

さて。

この映画を語るにあたって、避けては通れない作品があります。

それが、1982年の『キングオブコメディ』という作品。

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『タクシードライバー』『レイジングブル』『グッドフェローズ』など、数々の名作を生み出してきたマーティン・スコセッシ監督とロバート・デニーロのコンビによる作品。

数ある名作の中でも、本作は特に根強い人気がありますね。

ちなみに、お笑い芸人のキングオブコメディも、この映画にインスパイアされているようです。

 

ここからは、個人的感想も交えながら、『ジョーカー』と『キングオブコメディ』について、思ったことをつらつら語りたいと思います。

※この先は映画のネタバレ含みますので、ご了承ください。 

 

『キングオブコメディ』は過剰な妄想男の物語

『キングオブコメディ』とはどのような映画なのか。

こちらが、主人公のルパート=パプキン(ロバート=デニーロ) 

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彼は、スタンドアップコメディアンを目指す若者。

といっても、すでに齢32。

一度も人前で漫談を披露したことはありませんが、

写真パネルの人々の前では、彼は売れっ子コメディアン。

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そんな彼はある日、憧れのコメディアンであり、番組司会者であるジェリー=ラングフォードに接触することに成功します。

パプキンを追い払う口実に、ジェリーはこう伝えます。

「君には才能がある。まずは下積みから始めるといいよ」

「今日はもう遅いから、明日オフィスに電話してくれ」

 

ジェリーの言葉を真に受けるパプキン。

「俺はジェリーと友達だ」

「彼が、俺の才能を認めてくれた」

と、勝手に妄想を膨らませていきます。

 

番組に呼んでもらえると勘違いしたパプキンでしたが、なかなかジェリーから声はかかりません。

何度オフィスに通っても、いつも門前払い。

ジェリーに無視され続け、我慢の限界を超えたパプキンは、

ついに強行策に打って出ます。

ジェリーを誘拐し、彼の命をネタに、無理やり彼の冠番組に出演するのでした。

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初めてリアルな聴衆の前に立ちましたが、彼はこれまでの予行演習通り、臆することなく渾身の漫談を披露します。

一夜限りのヒーローとなるのでした。

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逮捕後、獄中で書いた彼の自伝本は、売れに売れてベストセラーに。

出所後、彼はめでたくスタンドアップコメディアンとしても、人気を博すのでした。

めでたし、めでたし。

 

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この映画は端的に言うと、

病的なまでに主観が強い男が、妄想を現実にしてしまった物語です。

 

本来、人間というのは社会的な存在です。

他者との関わりの中で生きていきます。

 

自分の思いと、社会との間で乖離が生まれた時、人はうまく折り合いをつけていくものです。

たとえば、コメディアンになりたいけど、社会がそれを求めていないとき。

社会から求められるよう努力するとか、あきらめるとか、といった選択をします。

 

しかし、彼はそれができませんでした。

彼の中では、自分は大人気スタンドアップコメディアンであるという思いの方が、そうでない現実より、圧倒的にリアルティが強かったのです。

だから、現実の方を、自分の思い描いていた妄想に合わせようと、無理矢理に捻じ曲げたのでした。

 

悲劇に見えることでも、一歩引いてみると喜劇になる

さて。

『ジョーカー』の中でも特に強調されていたのが、「主観」というキーワード。

チャップリンの言葉に、こんなのがあります。

近くで見ると悲劇でも、遠くから見ると喜劇である

 

ジョーカーとなったアーサーも、同じうなことを言いますね。

I used to think that my life was a tragedy. But now I realize, it's a fu**king comedy.

(人生は悲劇だって、ずっと思っていた。だけどやっと分かったんだ。人生は、喜劇だ。)

  

なぜ、彼は人生は喜劇だと気づけたのか。

この場合、本当に人生が喜劇かどうかはさておき、アーサーにとって人生は「喜劇である」と言うことですが。

 

ずっと主観で生きてきた人生を、彼は一歩引いて、客観的に見れるようになります。

 なぜ、それができるようになったのか。

僕は、決定的な要素が2つあると思いました。 

 

1つ目は、自身のことをヒーローとして客観的に見ることができたから。

 

ある日、彼は唯一の救いであった仕事をクビになってしまいます。

ピエロ姿のまま帰途についていた彼は、電車の中で、エリートサラリーマン風の若者3人組にリンチされてしまいます。

耐えかねた彼は、ついに銃を発砲。

心優しかった彼が、いきなり人を3人も殺してしまうのです。

 

これが、アーサーがジョーカーへの引き金を引いた瞬間です。

 

その後、何が起こったか。

若者を殺した謎のピエロ男は、一躍街のヒーローとなります。

不況の世の中で、お金持ちへの反感を持った人々が、彼に味方したのでした。

 

アーサーは、街のヒーローとして、初めて自分のことを第三者的に見ることができました。

 

もう1つのきっかけは、自分の人生がどん底まで落ちたから。

辛すぎて、もう主観の中では生きられなくなってしまうのです。

 

アーサーは、映画の後半、人生最悪の出来事に遭遇します。

ずっと一緒に生きてきた母親が、実母ではないことが判明します。

それだけでなく、小さい頃に散々虐待されていたことも知ってしまいます。

 

発作的に笑ってしまう病気を持っている彼ですが、

この事実を知った時の彼は、これまでにないくらいの声で笑い続けます。

まるで、泣きながら笑っているよう。

僕がこれまで聞いた中で、一番悲しい笑い声でした。

 

彼は、笑っていないとやってられないくらい、絶望のどん底に落ちます。

そのため、辛い主観の中で生きることをやめ、

ジョーカーとして、別の第三者として生きることを決めます。

 

そこから、上記のセリフに繋がります。

I used to think that my life was a tragedy. But now I realize, it's a fu**king comedy.

 

現実なのか、妄想なのか

『ジョーカー』と『キングオブコメディ』で共通しているのが、現実と妄想の境界が曖昧な点。

 

『ジョーカー』では、映画の最後、全てが彼の作り話だったのではないか?妄想だったのではないか?と思わせる終わり方をします。

 

『キングオブコメディ』も、途中から、どこまでが事実で、どこまでが妄想なのか、判別がつきにくくなってます。

最後の最後、彼の自伝本は本当にベストセラーになったのか?彼は人気コメディアンになったのか?そもそも、本当にテレビに出たのか?

 

映画を外から観ている我々だけでなく、もしかしたら映画の中の本人たちも、妄想と現実の区別がつかなくなっているのかもしれません。

 

結局、人生というのは、どこまでいっても主観でしかありません。

同じ現実を見ても、見る人によって全く違った風景として映ります。

 

うまくいかないとこだって、たくさんあるのが人生です。

パプキンにとっては、人気スタンドアップコメディアンであるはずの自分が、そうでないことは許せない。

だから、彼は現実のほうを、無理矢理に自分の妄想の方に合わせていきました。

 

アーサーにとっては、どうしようもなく辛くてしんどいのが人生。

だから、彼はアーサーという男の人生を生きることをやめました。

「ジョーカー」という別の第三者になって、アーサーという男の人生を、客観的に、喜劇として捉えることにしたのです。

 

『ジョーカー』の最後は、それまでのシリアルな雰囲気から一転、コメディタッチで終わります。

まるで、「全部コメディだよー!hahaha!」と、ジョーカーに嘲笑されているかのよう。

ジョーカーの世界の中で、遊ばれていた気分になりました。

 

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 最後に少し広告を。

今なら、アマゾンプライムで『キングオブコメディ』も『ダークナイト』も無料で観れますので、まだの方はぜひご登録を。

 

 あ、『ジョーカー』の監督であるトッド=フィリップスの代表作、爆笑コメディの『ハングオーバー』も観れますね。