ガリレオシリーズ4作目『ガリレオの苦悩』
タイトルのとおり、クールなガリレオが苦悩します・・!
本作のもう一つの特徴は、なんといっても女性刑事:内海薫(テレビでは柴咲コウが演じる)の登場です。
ここに草薙ー内海ペアが誕生し、彼女とガリレオとの掛け合いも愉快です。
内海の登場で、物語としても一気に奥行きが増した本作を、オススメポイントを中心に簡単にご紹介します!
『ガリレオの苦悩』の簡単なあらすじ
この作品は、5つの短編集からなります。
以下、それぞれの簡単なあらすじをご紹介します。
なお、多少のネタバレは含みますので、未読の人はご注意ください。
第1章:落下る(おちる)
マンションから女性が落下して、亡くなります。
容疑者は、生前の彼女と最後に会っていたと思われる愛人。
しかし、彼には鉄壁のアリバイがありました。
愛人が怪しいと睨んだ内海薫は、「自分が部屋にいなくても、マンションから死体を落とす方法はありませんか?」と、ガリレオに相談に行きますが・・
第2章:操縦る(あやつる)
湯川の大学時代の恩師、友永幸正。
彼の家に食事に招待された晩、隣の離れで火事が起こり、そこにいた友永の息子が亡くなります。
友永の息子は、働かず、友永たちの財産を食いつぶす問題児だったそうです。
湯川は、友永がトリックを使って火事を起こしたことを見抜き、事件はあっさり解決したかに見えましたが・・・
第3章:密室る(とじる)
大学時代の友人、藤村に呼ばれて、湯川は彼の経営する別荘へ遊びに行きます。
彼の別荘では、数日前に泊まっていた客が雪山で転落し、亡くなる事件が起こっていました。
一見ただの転落事故ですが、藤村には引っかかる点があり、わざわざ湯川に相談するために呼んだのでした。
真相を明かそうとする湯川を前に、なぜか挙動不審な藤村。
湯川がたどり着いた真相とは・・
第4章:指標す(しめす)
資産家の老婆が何者かに殺され、家から金貨が盗まれる事件が起きます。
容疑者は、事件の直前に老婆の家をのぞいていたという保険営業の女性。
彼女と彼女の娘を張り込んでいると、娘がダウジングの力を使い、死体となった番犬を見つけます。
番犬の死体は、本当にダウジングの力で見つけたのでしょうか。
それとも、娘たちが犯人なので、場所を知っていたのでしょうか。
ダウジングを信じる少女を前に、ガリレオが出した答えとは・・・
第5章:撹乱す(みだす)
「悪魔の手」と名乗る人物から、警察に向けて挑戦状が送られます。
手紙の主曰く、自分は科学の力で人を殺せると。
そして、湯川と自分、どっちが天才科学者か勝負しよう、とも。
実際に「悪魔の手」の予言通り、不可解な死が連続します。
そして、いよいよその手は湯川たちに迫ってきます。
果たして、本当に科学の力で人を殺せるのでしょうか?
そして、犯人はなぜ湯川に対して敵対心を持っているのでしょうか?
苦悩するガリレオの姿
いつもはクールなガリレオが、苦悩します。
●「落下る」では、頑なに捜査に協力しないという湯川を前に、必死になって食らいつく内海薫を前にして。
●「操縦る」では、人を殺めてしまった自身の恩師を前にして。
●「密室る」では、身内を守ろうとする友人を前にして。
●「指標す」では、ダウジングを信じる純粋な少女を前にして。
●「撹乱す」では、自身を狙う「悪魔の手」を前にして。
クールなガリレオが苦悩する姿が、実に人間らしくて、読む人の共感を誘います。
個人的には、以下の2つの場面が印象に残りました。
ー「落下る」よりー
●捜査に協力しないと言い張る湯川に対して、彼女なりに“無駄な”実験を試す内海薫。そのひたむきな姿を見て、ガリレオは何気なく手を貸します。
ー「操縦る」よりー
●殺人を犯してしまった孤独な恩師に対して、
どうして、僕たちを信用してくれなかったのか
ー『ガリレオの苦悩』「操縦る」よりー
という言葉とともに、湯川は頭を下げます。
彼の心の葛藤に、思わず涙してしまいました。
科学的トリックよりも、人の心情にフォーカスされた作品
全体を通して、作者お得意の科学的要素が強いトリックが仕組まれています。
文系の僕としては、ちょっと難しいところは読み飛ばしてしまいました。
おそらく、僕と同じような人も多いのではないでしょうか?
作者もそれを分かってか、トリックの理解に重点を置いているわけではなさそうでした。
むしろ、トリックでの驚きがない分、犯人や周囲の人の心情にフォーカスがされており、“犯人たちの苦悩”が物語の中心となっております。
内海薫の登場でグッと豊かになる物語
4作目の本作より、女性刑事内海薫が登場します。
先にテレビシリーズで柴咲コウが演じていたキャラが、小説へ逆輸入という形になりました。
彼女は、草薙とタッグを組みます。
マイペースな草薙と、頑張り屋で強気な内海。
2人のちぐはぐコンビは、見ていて愉快ですね。
また、ガリレオと内海薫の接触も、ここが初めてです。
最初は、事件への協力を迫ってくる彼女に対して、わずらわしさを感じていた湯川。
しかし、彼女のひたむきさや一生懸命さに、次第に湯川が折れていきます。
何でもそうですが、同性の中に、突然真逆のタイプの異性キャラが登場すると、物語にグッと奥行きが出ます。
泥臭くて、一生懸命な彼女の登場で、ガリレオシリーズはまた一段階と面白くなっていきます。
ぜひ、本作を通して、苦悩するガリレオの姿と、新鮮な内海のキャラを楽しんでください!
以上、だーまん(@daaman-daaman)でした!
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