早稲田松竹で、『女神の見えざる手』を観てきた。
ここの劇場は本当にハズレがない。
観終わった後に、後悔したことがない。
基本は、1回入場すれば何回観てもいい。ラスト1本だけなら800円で観れる。
(※以下、本作品のネタバレを含みます。ご承知おきください)
本作は、闘うエリート女性の物語。
ロビイストという、政治家に対する働きかけをする職業。
騙し騙され、今日の味方は明日の敵。一流の戦略家たちの生き抜くには、信じられるのは己だけ。
そんな世界で、百戦錬磨の敏腕ロビイスト、エリザベス・スローン(ジェシカ・チャスティン)。
彼女の戦いを通して、アメリカ社会の闇を垣間見た。
- 敏腕ロビイスト:ミス・スローンに来たオファー
- そして、全面戦争へ
- 勝利目前と思われたが・・・
- 糾弾される、行きすぎたスローンのロビー活動
- 彼女が戦っていたものとは・・?
- 彼女の生き様は、まさに現代の武士だった
敏腕ロビイスト:ミス・スローンに来たオファー
コール=クラヴィッツ&Wという大手ロビー会社に勤めている敏腕ロビイスト、ミス・スローン。
彼女宛に、ある日重要顧客から仕事のオファーが来る。
それは、銃規制法案を阻止してくれというものだった。
銃の擁護団体にとって、その法律は彼らのビジネスを妨げることになる。
しかし、社長の大反対を押し切り、彼女はオフォーを断る。
時を同じくして、その噂を聞いた小さなロビー会社の社長シュミットは、ミス・スローンにアプローチをする。
「この報酬を出すから、うちに来て銃規制法案を通すために戦わないか?」
メモ用紙に書かれた金額を見て、彼女はオファーを快諾する。
翌日、チームメンバーに移籍の旨を告げるスローン。
半数は残り、半数は彼女についていくと答える。
しかし、当然一緒に来ると思っていた右腕のジェーンは、残ることを選択した。
そして、全面戦争へ
移籍した彼女は、早速仕事に取り掛かる。
法案を通すために、あと何人の政治家の賛成票が必要か。誰を取り込めばいいのか。誰は諦めるのか。綿密な計画が練られる。時間との戦いだ。
手段を選ばない彼女のやり方に、最初は戸惑う同僚たち。
しかし、少しずつ結果が出始める中で、どんどんイケイケモードになっていく。
裏の裏をかいた心理戦。
コール=クラヴィッツ&Wも容赦しない。
しかし、相手の情報を先回りして入手し、相手の一歩先をいく。
ミス・スローンはあらゆる会合に出席し、キーパーソンへの足掛かりを作ったり。
私財を投げ打って、プロレベルの盗聴・盗撮チームを雇ったり。
過去に銃乱射事件の現場に居合わせたことがある同僚・エズメをテレビに露出させ、彼女の訴えによって市民の同情を買う作戦に出たり。
彼女のおかげで、同僚の中に相手側のスパイがいたことも露見する。
敵の二歩も三歩も先を行く行動によって、徐々に賛成票が集まってくる。
後一歩で勝利目前というところまで、ようやくやってきた。
勝利目前と思われたが・・・
しかし、怖いくらいにうまくいっているときにこそ、事件は起きるもの。
テレビに露出し、銃規制を訴えるエズメに対して、一般市民の銃が突きつけられる。
「調子にのるな!前回の事件の時は助かったかもしれないが、今度こそ殺してやる!」
彼が銃を発砲する寸前で、たまたま近くを通りがかった元軍人が犯人に対して発砲。
エズメは、一命を取り止める。
しかし、この事件によって、世論は一気に逆転。
エズメを救った元軍人は、一躍時の人になる。
彼が銃を持っていたことによって、エズメを助けることができた。
銃規制法案に対して、一気に反対ムードとなってしまった。
世論に便乗したいコール=クラヴィッツ&W側は、ここぞとばかりにスローンの穴を探り始める。
彼女の行きすぎたロビー活動の欠点を見つけ、一気に彼女を陥れようとする。
しかし、完璧主義なミス・スローン。そう簡単にヘマをするわけがない。
なかなかつけいる隙が見つからない中、元右腕だったジェーンが、策略家スローンが犯したたった一つのミスを見つける。
糾弾される、行きすぎたスローンのロビー活動
彼女の眼に余る行動に、聴問会が開かれることとなる。
議長は、スパーリング上院議員。
企業弁護士から、黙秘権があるのだからそれを理由に黙っていれば大丈夫とアドバイスを受ける。
最初は黙秘権を貫く彼女だったが、スパーリング上院議員のあまりに失礼な発言に、ついに口を開いてしまう。
それが、黙秘権を放棄したとみなされてしまう。
それまで神妙な顔をしていたスパーリング上院議員は、この時嬉しそうな顔でこう言う。
Welcome to the party!(パーティーへようこそ)
ついに、彼女の行きすぎた行動が、公の場で問われる時が来た。
ジェーンが見つけてきたたった一つの証拠によって、スローンは法律のルールを破ったことが明かされる。
彼女には、刑が下されることになる。
彼女が戦っていたものとは・・?
そして、いよいよ判決の日。
「その前に、最後に一言ありますか?」というスパーリング議長の言葉に対して、一言話させてくださいというスローン。
彼女は、前に出て語り出す。
「銃規制法案を通すために、確かにやりすぎた行動をしました。
盗聴や盗撮、果ては自身の同僚を売ってしまった。一線を越えてしまった。
彼女の信頼だけでなく、何もかも失ってしまった。
ルールを破ったことは自覚してます。
身をもって、刑に服するつもりです。」
「だけど、その前に一つだけ、言わせてください。
私のやり方は、確かに行きすぎてました。
だけど、それよりもっとひどいことがあります。」
「それは、今のこの国の有様です。
今回の法案が、この国にとって大事かどうか考えている議員は一人もいない。
この国の未来のことなんか、これっぽっちも考えていない。
みんな、自分の保身のことばっかり。」
「実は、こうなることはわかっていました。
常に相手の一歩先を行く。私も、相手側に自分の味方を残して来ましたから。」
コール=クラヴィッツ&W時代に右腕だったジェーンは、仲違いしたように見せて、わざと残ったのだった。スローンのスパイとなるため。
「みなさん、今からいうアドレスにアクセスしてください。」
そして、彼女はあるアドレスを指定した。
そこには、スパーリング上院議員が、銃擁護団体に買収される現場を撮影した映像が入っていた。
先に情報を入手したスローンは、その現場を激撮したのだった。
もともと銃規制法案に賛成派だったスパーリング。
しかし、彼は銃擁護団体に脅されていた。
「反対派に寝返り、公聴会でスローンを潰してくれたら、一生安泰で議員をやっていけるだけの報酬を約束する。」
「もし断ったら・・・どうなるかわかっているよな?」
映像が流れ、公聴会は大混乱。
結果的に、銃規制法案は無事議会にて承認されることになる。
スローンの実刑判決と引き換えに。
彼女の生き様は、まさに現代の武士だった
全てを仕掛けたのは、ミス・スローンだった。
味方の誰にも言わず、自分一人ですべてを背負っていた。
なぜか?
同僚が秘密を知ってしまったら、偽証罪で5年の刑になるからだ。
誰よりも仲間のことを想い、誰よりもアメリカ社会の未来を想っていたのは、彼女だったのかもしれない。
彼女は、コール=クラヴィッツ&Wと戦っていたのではない。
自分のことしか考えない、腐った自国と戦っていたのだ。
最後の最後の大逆転。
映画を観ながら、思わず一人ほくそ笑んだ。隣の人と目を合わせて、うなずき合いたかった。
一人自宅で観ていたら、きっと叫んでいただろう。
さて。
彼女をここまで突き動かした動機は、なんだったのだろうか。
映画の中では、直接的には明かされない。
キャリアのため?愛する誰かのため?我々は想像するしかできない。
彼女は、たった一人で自身の信念を貫いた。
お金とか、名誉とか、そんなもののためではない。
己を信じて、全てを投げ打って闘った彼女の姿に、脱帽した。
こういう人こそ、時代を作っていくのかもしれない。
自国の未来のために戦った、坂本竜馬たちのように。
最後の最後で、彼女がシュミットから受け取った移籍オフォーの額が明かされる。
彼女への報酬額は、なんと「0ドル」だった。