見事に練られた脚本によって、一見怖いサスペンス映画と思いきや、人の成長に触れ、いつもより誰かに優しくしたくなる作品だ。
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スリー・ビルボード 2枚組ブルーレイ&DVD [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: 20世紀フォックス ホーム エンターテイメント
- 発売日: 2018/06/02
- メディア: Blu-ray
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物語の始まり
ミズーリ州エビングの街外れに、3枚のビルボード(広告板)がある。
そこにある日、デカデカとこんな文字が書かれる。
“RAPED WHILE DYING(レイプされながら死亡)”
“AND STILL NO ARESSTS?(なのに、犯人逮捕はまだ?)”
“HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY?(どうしてなの、ウィロビー署長?)”
娘を殺されたミルドレッドが、なかなか進展しない警察の犯人逮捕にしびれを切らし、大々的に広告を打ち出した。
ミルドレッドがこの3枚の広告を出したことによって、物語は静かに始まっていく。
3人の主要人物
ウィロビー署長と持病
まず、ここで槍玉に上がっているウィロビーは、街の警察署の署長。
彼は人望が厚く、街の人から信頼されているのだが、実は大きな秘密があった。
彼はがんを患っており、余命幾ばくかの命であった。
事件に関しては、決して捜査をサボっているわけではない。
今回に限っては、全く証拠が掴めないでいる。
証拠がないことに加え、署長の人望のために、広告によって署長を槍玉にあげたミルドレッドは、逆に孤立していくことになる。
ミルドレッド自身の負い目
無能刑事ディクソン
3枚のビルボードに対して一番怒っていたのが、ウィロビー署長を父親のように慕うディクソン刑事。
彼は、本当にどうしようもない刑事。人種差別主義者であり、何をするにもママの意見を聞くマザコン。
仕事も真面目にやらず、サボりながら漫画を読み、何かあるといつもキレてばかり。
そんな彼は、ウィロビー署長のことをバカにされて、人一倍怒り狂う。
ウィロビー署長の自殺、そして3枚の手紙
広告が出され、世間が騒ぐ中で、渦中のウィロビー署長が自殺する。
自身のガンが治らないことを知り、死の恐怖を待つよりかは、潔く命を絶とうと決意したのだった。
そして、彼は3通の手紙を残していく。
1通は愛する妻へ、愛と感謝の言葉を。
1通は、ミルドレッドへ。
犯人が早く捕まることを祈っていること、そして3枚の広告代を1ヶ月分払うこと。また、この自殺は広告とは一切関係がないこと。
そして最後の1通は、部下のディクソンへ。
しかし、ディクソンがその手紙を読むときには、すでに彼は刑事を首になっていた。
広告の放火と、警察署の放火
ウィロビー署長の自殺の翌日。
ミルドレッドの広告が彼を自殺に追いやったと、あらぬ噂が街で囁かれる。
それを鵜呑みにしたディクソン刑事は、広告を掲載した広告屋レッドに怒りの矛先を向け、彼の事務所を襲撃。レッドをボコボコにし、病院送りにしてしまう。
一部始終を次期署長(皮肉にも黒人の署長!)に見られていた彼は、あっさり解雇されてしまう。
また、時を同じくしてミルドレッドの広告が何者かによって放火される。
鎮火しようにも火の勢いは止まらず、広告は虚しく燃えきってしまう。
広告の放火をディクソンの仕業だと思った彼女は、警察署を襲撃することに。
夜中に彼女は火炎瓶を投げ入れ、警察署を放火。
タイミング悪く、解雇されたディクソンがたまたま警察署の中にいた。
彼は首になったため、自分の荷物を取りに来ていたのだ。そして、そこで初めて亡くなったウィロビー署長からの手紙を目にする。
そこには、ディクソンは優秀な刑事になる才能があるが、欠点はキレやすいこと。そのため、大きな愛を持つことが大切だと、激励の言葉が綴られていた。
火事から逃げ遅れたディクソンだったが、間一髪で逃げ出し、なんとか一命を取り止める。
火事の中から逃げて来た彼は、ミルドレッドの娘の事件についてのファイルを抱えていた。
ディクソンの改心
全身に大火傷を負い、入院することになったディクソン。
なんと、同じ部屋には自分が暴行して入院送りにした広告屋のレッドがいた。
レッドに気づいた彼は、謝罪の言葉を述べる。
レッドは、最初は怒りをあらわにしながらも、ディクソンのためにストローをつけて、グラスにジュースを入れて差し出す。
ウィロビー署長の手紙に続き、人の優しさに触れたディクソン。
彼は、改心することを決めたのだった。
犯人逮捕かと思われたが・・
退院後、一人バーでお酒を飲んでいたディクソン。
彼の隣の席で、犯人と思われる人たちの会話を運良く盗み聞く。
証拠を掴むため、ボコボコにされながら、相手の頬を掴んで皮膚をむしり取るディクソン。
しかし、ディクソンがむしりとった皮膚のDNAは、ミルドレッドの娘を殺した人物のDNAとは一致せず。
ディクソンの報告に一度は喜んだミルドレッドも、この結果に落胆する。
そんなミルドレッドに対して、ディクソンが声をかける。
結果的にミルドレッドの娘を殺した犯人ではなかったが、レイプ犯であることは間違いない。「奴らのいるアイダホに、一緒にやっつけに行くか?」と。
それに賛同するミルドレッド。
これまで敵対してきた二人が、同じ車に乗ってレイプ犯を追いかけて行く。
道中、ミルドレッドはディクソンに告白する。
「警察署を放火したのは私よ」
ディクソンは、驚きもせず言う。
「そんなの知ってるよ。あんた以外に、誰があんなことする?」
また、ディクソンの「レイプ犯を殺すか?」という問いかけに対して、ミルドレッドはこう答える。「道々決めればいいさ」と。
アイダホに向かっていく車中は、どこか楽しげだ。
善も悪も、連鎖していく
負の連鎖から始まる物語。
ミルドレッドの悪意ある広告に始まった負の連鎖は、ディクソン、そして街の人々の反発へと繋がる。
署長の死によって広告屋レッドに暴力が振るわれ、また警察署は火事となる。
ミルドレッドはどんどん孤立していき、ディクソンは刑事を首になる。
何の解決も見出せない、マイナスのどん底。
しかし、そんな状況でも、人の優しさはあった。
死に行く署長からの手紙、そして広告屋レッドの思いやり。
彼らの小さなプラスの行動や思いが人を改心させ、物語は大きく反転していく。
物語の最後、二人でレイプ魔を倒しに行く場面。
二人は、レイプ犯を殺すのだろうか。
きっと、しないだろう。
負による解決は、何も生まないと学んだ二人だから。
同じ目的に向かっていく二人は、どこか楽しそうだ。
悪意のスパイラルが、たった1つの小さな善意によって、少しずつ、少しずつプラスのスパイラルへ向かっていく。
いつもより少しだけ、人に優しくしてみようと思える映画だ。