『ゼロの焦点』に続き、シネマヴェーラ渋谷の「戦争と女たち」特集で、『日の果て』という戦争映画を観てきました。
日曜の昼間にも関わらず、館内は若い人がほとんどいなく、ちょっと気まずかったです。笑
映画は、太平洋戦争中のフィリピンでの日本軍を描いた作品。
白黒で、フィルムの劣化からか、途中少し音が聞こえにくくなったりしました。
それが逆に、「貴重な作品を観ている!」という気にさせてくれて、ワクワクしました。笑
戦争映画ですが、物語のテーマは1人の兵士の葛藤です。
日本軍としての正義を果たすべきか、自分が正しいと思う正義を果たすべきか。
今にも十分通じるテーマです。
こういう機会でなければ、絶対に観なかった貴重な作品。
想像以上に面白く、観終わった後に1人で色々考えたくなる作品でした。
そういう映画と出会わせてくれることが、名画座の醍醐味ですね。
30秒でわかる『日の果て』のあらすじ
舞台は、第二次世界大戦中のフィリピン。
主人公の宇治中尉は、「逃げて行った軍医・花田を連れ戻してこい」と、部隊長に命令されます。
「帰ってくるのを拒んだら、遠慮なく殺せ」とまで言われます。
宇治中尉は、高城という部下に道案内をしてもらいながら、花田のもとへ向かいます。
最初は、花田を殺すつもりでいた宇治中尉。
しかし、花田の元へ向かう道すがら、彼は戦時中の悲惨な状況を振り返りながら、少しずつ心境が変化していきます・・・
無事、花田の元へ辿りついた宇治と高城。
一刻も早く花田を殺し、軍に戻ろうと言う高城に対して、宇治は「待った!」をかけます。
花田を連れ戻すか、彼を殺さなければ、自分が殺されます。
それも関わらず、花田を殺すことに対して、宇治は疑問を持ち始めます。
果たして、宇治はどのような決断を下すのでしょうか?
「命令に従うこと」と、「自分が正しいと思う選択をすること」の間で、葛藤する宇治中尉の姿が描かれます。
戦争のリアルを知れる映画
誰かの経験を追体験できることが、映画の醍醐味です。
平成生まれの人にとって、話でしか聞いたことのない“戦争”
映画を観ることは、戦争のリアルな姿を知る一つの手段です。
映画の中では、過酷な状態にあったフィリピンでの日本兵の姿が描かれています。
特に印象的なシーンを2つほど紹介します。
こっそりニワトリを食べた兵士が、銃殺刑に
部隊長が飼っていたニワトリを、盗んで食べた兵士が銃殺刑になります。
それほど食事に困っていたこと以上に、そんな簡単なことで人が殺されてしまうのか、と驚愕でした。
「殺された兵士は、戦闘中に殺されたことにしておけ」と部隊長は言います。
そんな部隊長の部屋には、彼の功績を示す飾りがたくさん置いてあります。
数々の飾りと、あっけない兵士の死のシーンがオーバーラップします。
まるで、そういう無駄な犠牲が、部隊長の功績へと繋がったことを示すかのように。
命からがら逃げてきた兵士に対して、「自分の部隊へ帰れ!」
違う部隊の兵士2人が、身体ボロボロになって逃げてきます。
「自分たちの部隊が全滅したので、こちらの隊に入れてほしい」と言います。
彼らに対して、部隊長は言います。
「これ以上兵士が増えたら、食料がなくなる。
それに、お前達2人が生きているということは、まだ“全滅”していないじゃないか!
今すぐ持ち場に戻れ!」
すでにボロボロだった彼らは、その言葉を聞いて絶望します。
死んだ目をしながら、ゆっくり帰っていきます。
簡単に命が捨てられてしまう悲惨な状況。
戦時中の過酷さが、映画を通して十分すぎるほど伝わってきました。
「軍の正義VS自分の正義」の葛藤
この映画は、宇治と高城という2人の人物の対比で進行します。
宇治は、戦時中の悲惨な状況に違和感を感じたことと、あえて戦争から逃げようとする花田の姿を見て、少しずつ心境が変化していきます。
一度戦争に対して疑問を持った彼は、その疑問を消すことができません。
それに対して、高城にとっては上司の命令が絶対です。
自分の考えよりも、上司の命令や、軍の決まりを一番に考えます。
象徴的なシーンが、特攻に行った兵隊達が、敵から逃げてたまたま宇治達のもとへやってきたシーン。
高城は、真っ先に彼らに発砲します。
「逃げてきた兵士を殺して、何が悪い!」と叫びます。
当時の日本軍においては、
「敵から逃げるような腰抜けは、全体の士気を下げる。
逃げるくらいなら、死んでこい!」
の精神です。
映画を観ている立場からすると、高城がちょっと異常にうつります。
花田も、上司の命令でしか判断できない彼のことを「かわいそなやつだ」と言います。
しかし、高城の行動は、日本兵としては正解なのです。
当時は、それが当たり前の行動だったのです。
その気持ちがわかるからこそ、宇治も高城に対して強く言えません。
自分にとっての正義と、日本兵としての正義。
その間で揺れる宇治中尉の葛藤が、映画を通して描かれます。
みんなが正しいと思っていることを、時には疑う勇気を
戦時中は、戦争反対と言うと「非国民!」と呼ばれる時代。
戦争に疑問を持って、花田軍医や宇治中尉のように、そこから逃げようとした人物がいたことが驚きでした。
みんなが「打倒アメリカ!」に燃えている中で、そのことに対して疑問を持つ。
それは、ワールドカップでみんなが日本を応援している時に、それに反対するようなもの。
今ならせいぜい非難されるくらいの話ですが、当時だったら殺されています。
そこまでの覚悟を持って、みんなと反対を向くことができただろうか・・
戦争に違和感を持ったとしても、その気持ちにフタをすることなく、感じるままに行動できただろうか・・
映画を観ながら、そんなことをずっと自問自答していました。
『日の果て』は戦争映画ですが、テーマは
「自分が正しいと感じたことのために、命を懸けてまで、みんなと逆の道を歩めるのか?」
です。
現代においても、そのまま通じる物語です。
自分の生きる姿勢を問われているようでした。
「自分が宇治中尉だったら、どう行動するか?」
そんなことを自問自答しながら、ぜひこの作品を味わってみてください!
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