就活を題材にした、朝井リョウさんの小説『何者』を読みました。
この物語は、就活を迎えた5人の男女の物語です。
学生▶️社会人という、人生で一番大きな転機を迎えるための儀式が「就活」です。
多くの人にとって、「どこかに就職しないと人生が終わる」という強迫観念があります。
人生をかけた戦いだからこそ、多少の恥じらいは捨てる人もいます。
時には、友情さえも捨てる人もいます。
この記事では、
●30秒でわかる『何者』のあらすじ
●『何者』が読者を魅了する理由
について書いてました。
就活のあの“妙な違和感”を、わかりやすい言葉で描いています。
良くも悪くも、共感できるところが多すぎて・・・朝井リョウさんの、繊細な描写に脱帽する作品です。
30秒でわかる『何者』のあらすじ
主人公・拓人の視点で描かれる、就活を取り巻く5人の男女の物語です。
主人公の拓人、バンドマンの光太郎、海外に留学していた瑞月、瑞月と留学先で知り合った理香、理香の彼氏の隆良という5人。
彼らは、ふとしたきっかけから集まるようになり、就活を一緒に戦っていくことになります。
表面的には「一緒に就活する」ことになった5人ですが、内定者の枠が限られている以上、お互いはライバルでもあります。
就活が進んでいくに連れて、少しずつ明らかになっていく彼らの本性。
そして、彼らの関係性にも次第にほころびが表れてきて・・・
誰が、無事“内定”をもらえるのでしょうか?
そもそも、“内定”が全てのゴールなのでしょうか?
就活という儀式を通して、人間のウラの顔を正面から描いた作品です。
就活に対して、誰もが感じる違和感
この作品では、誰もが感じる就活に対する“違和感”が、たくさん描かれています。
●それまで金髪だった髪を黒くして、服装も真っ黒なスーツになる
●面接で選んでもらう=相手に気に入ってもらう
そのために、多少なりとも自分を装う時もある。
しかし、それで選んでもらったのは、本当の自分なのだろうか?
●「内定者の枠」は 限られている。
そのため、友人といえどもライバルになる。
●試験とは違って、合否の基準が曖昧。
落ちた自分は、受かった友人よりも「人間的に劣っている」ということなのか?
これまでの人生で、「就活」のような経験をしてきている人は多くありません。
そのため、“違和感”に対する反応も、様々です。
苦悩しながら、真正面から挑む人。
意外とうまく適応し、あっさり進む人。
真正面から挑まず、奇襲で戦おうとする人。
あえて戦わない方法を選ぶ人。
人生をかけた戦いだからそ、人の本当の姿が出てくるのです。
「あるある!」な登場人物たち
この作品が多くの人の共感を呼ぶのは、登場人物たちが「あーそういう人いる!」という人ばかりだからです。
●主人公:拓人
冷静に全体を見る「観察者」として描かれています。
本人の視点から物語が進行するため、他人から見える彼の姿はわかりません。
ただ、少し離れて客観的に見るのが好きなため、「一緒に就活を頑張る」ということにイマイチ馴染めていません。
●まっすぐなバンドマン:光太郎
天真爛漫な性格で、オモテウラがなく、ストレートな性格。
思ったことはなんでも口に出すのに、それがイヤミに聞こえない。
素直な子供がそのまま大人になったような、憎めない奴。
●帰国子女:瑞月
根っからの素直な性格。
全てを言葉通りに受け止めるし、言葉通りに表現します。
高スペックにも関わらず、それを鼻にかけるようなところもありません。
苦悩しながらも、真摯に就活に向き合っています。
●意識高い系女子:理香
いわゆる、“意識高い系”女子。
学生なのに名刺を作ったり、自分の経歴をやたらアピールしてます。
グループディスカッションでは積極的に司会をやるタイプです。
拓人の目からは、“痛い存在”として描かれています。
●斜に構えている系男子:隆良
黒髪になり、黒スーツに身を包んだ就活生を小馬鹿にします。
「自分の名前で食べていく」と言い張り、違う道を歩もうとします。
就活するにしても、私服で参加したりと、他とは違うことをアピールします。
スタンスが全く違う彼らが、たまたま一緒に就活を戦うことになるのです。
それが就活の結果にも繋がっていきますし、彼らの関係性を微妙に変えていく要因にもなっています。
朝井リョウさんの描く“人間丸出し”の姿
初めて朝井リョウさんの作品に触れたのは、映画『桐島、部活やめるってよ』でした。
早稲田松竹という映画館で観ましたが、あまりの衝撃に、帰りは高田馬場駅から新宿駅まで歩いて帰りました(30分以上!)
それくらい、観終わった後に、1人で色々考えたくなる作品でした。
『何者』を読んだ後も、全く同じ感情を味わいました。
口にはハッキリと出せないが、誰もが感じている“心の声”がたくさん登場します。
●意識高い系の人々を痛々しいと口では言う一方で、彼らのスペックに対して実は嫉妬している
●誰かがうまくいかないと、一緒に残念がっているようで、内心ホッとしている
●誰かに内定が出ると、表面的にはお祝いするが、隠れて内定先についてこっそり調べ、悪い情報があると心の中でニヤッとしている
●一生懸命になるのはダサいと斜に構えるが、本当はなりふり構わず頑張りたい・・・
外から見ると、「見苦しい戦いだなー」と、客観的に見ることができます。
しかし、戦いの中にいる当事者たちは違います。
一度経験している身としては、「醜いなー」と頭ではわかりながらも、全てに共感できてしまい、胸がズキズキ痛かったです。
就活を経験した人には、ぜひ読んで欲しい1冊
この小説の最大のポイントは、「共感」です。
しかも、声を大にして言いにくい種類の「共感」です。
「先に内定した友達の内定先をこっそり調べて、悪い情報を見つけて内心ホッとしている」
そんなこと、友達とは共有できません。
しかし、実際にやったことのある人、実は多いのではないでしょうか?
『桐島、部活やめるってよ』の時も、近い感情が生まれました。
同年代だからなのか、朝井リョウさんの描く繊細な世界観に、痛いほど共感してしまいます。
ネタバレなので詳しくは触れませんでしたが、最後の35ページで、それまでの全てがひっくりかえります。
就活を戦う彼ら5人の運命はいかに?
ぜひ、ネタバレなどは見ずに、この作品をお楽しみください。
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朝井リョウさんの原作を元にした映画『桐島、部活やめるってよ』
学校ヒエラルキーを克明に描いており、観ながらけっこうしんどかったです。笑