「あの有名映画の本当の意味は?」
「分からなかった映画のあのシーンは、何を意図していたのか?」
映画は、ただ観るだけでも十分楽しいです。
しかし、作品が作られた過程、当時の社会への影響など、
その背景を知れば、面白さは何倍にもなります。
そんな、「映画の見方」を教えてくれる本がこちら。
映画雑誌『映画秘宝』の創刊者、映画評論家の町山智浩さんによる、
「〈映画の見方〉がわかる本」の第二弾です。
ちなみに、こちらが第一弾。
第一弾のこちらでは、人生の映画ベスト1に挙げる人も多い、
スタンリー・キューブリック監督『2001年宇宙の旅』を取り上げます。
一般的な解釈とは180度違った町山さんの見解は、衝撃的でした。
第二弾の本書では、1980年代の映画作家による作品を解説してくれています。
映画の背後に隠れた意味まで知りたい人には、必読の1冊です。
同じ映画を、2倍、3倍楽しめること間違いなしです。
それでは、『〈映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀』をご紹介します。
『〈映画の見方〉がわかる本 ブレードランナーの未来世紀』はどんな本か?
この本は、映画を観ただけではわからない、「映画の見方」を教えてくれます。
たとえば、
・『プラトーン』:エリアスが死ぬ間際、天に向かって両手を挙げたのは何の象徴か?
・『イレイザーヘッド』:分かりにくいこの映画は、何を意味するのか?
・『ロボコップ』:この作品における、当時のレーガン政権への批判とは?
・『ブレードランナー』:ハリソン・フォード演じる主人公デッカードは、なぜいつも曖昧な表情を浮かべているのか?
8人の映画作家と、彼らの代表作についての解説があります。
・デヴィッド・クローネンバーグ『ビデオドローム』
・ジョー・ダンテ『グレムリン』
・ジェームズ・キャメロン『ターミネーター』
・テリー・ギリアム『未来世紀ブラジル』
・オリヴァー・ストーン『プラトーン』
・デヴィッド・リンチ『ブルーベルベット』
・ポール・ヴァオーホーヴェン『ロボコップ』
・リドリー・スコット『ブレードランナー』
映画は、ただ観るだけでも楽しい。
しかし、その背景を知れば、もっともっと楽しめます。
映画評論家として、これまで膨大な数の作品を観てきた著者の目を通して、
映画の「本当の見方」を教えてくれる本です。
この本のここが面白い!
徹底した調査に基づいた、圧倒的に詳しい解説!
この本は、ただの映画紹介本ではありません。
その証拠に、文庫本にして約400ページ。
1つの作品に対して、平均50ページも割かれています。
ただ感想を述べる映画紹介本なら、1本の映画に対して1ページもあれば十分でしょう。
町山さんがすごいのは、その調査と研究の徹底さ。
制作当時の脚本、制作にあたって参考にした他の作品、監督が撮った他の作品、監督自身へのインタビュー、当時の制作ノート、等々・・・
研究者並みに、徹底的に調査をしています。
「よくそこまで調べたな!!」と、読みながら何度も驚かされます。
作家の生まれた時代背景から、育った家庭環境、影響を受けたことなどなど。
実際にインタビューまでしているからこそ、分かることがあります。
それこそ、「手に入る限りの資料」と「監督自身の言葉」を手がかりに、
徹底的に解説してくれています。
映画の面白さが、2倍、3倍・・・に!
映画は、ただ観て楽しむのも1つ。
しかし、製作者がいて、作品を世に発表するということは、
そこに何かしらの意図があるはずです。
(もちろん、商業的成功だけ狙った、薄い映画がたくさんあるのも事実ですが・・)
絵画や美術作品と同じように、
背景を知ることで、同じ作品を2倍、3倍・・楽しめるようになります。
「こうだと思っていた解釈が、実は真逆の意味だった」
なんてこともあります。
僕が一番感動したのは、デヴィッド・リンチ監督の『イレイザー・ヘッド』についての解説です。
最初に観たときは、サッパリ意味がわかりませんでした。
それが、この本を読んだら、あっさり意味がわかりました。
バラバラだったパズルのピースが、綺麗にはまったような快感がありました。
その瞬間に、「意味不明な映画」が、「ものすごく面白い映画」に様変わりしました。
1980年代、ハリウッドの影で活躍した監督たちの作品を知れる!
この本が取り扱うのは、1980年代の作品です。
ハリウッド的な大衆映画でなく、
ハリウッドの外で、映画作家たちが作った奇妙な映画を取り上げています。
ここで、簡単に当時のアメリカ映画の歴史を振り返ってみます。
1960年代後半から、若者のカウンターカルチャーの波が、ようやく映画界にも訪れます。
それまで綺麗な夢物語しか描いてなかったハリウッド映画は衰退し、
『イージー☆ライダー』『俺たちに明日はない』『明日に向かって撃て!』『卒業』など、
リアルで、バイオレンスで、反抗的な映画が作られます。
しかし、そんな時代も長くは続きませんでした。
終わりを告げたのが、1976年の作品『ロッキー』です。
この作品、最初は当時の他の映画と同じように、
主人公が負けて終わる、暗いエンディングを想定していたそうです。
しかし、最終的に現在のエンディングに改変。
(結果的に試合には負けますが、最後の判定まで持ち込むハッピーエンド)
成長する主人公、そして努力は最後に報われるという、
アメリカン・ドリームの復活を宣言した作品です。
1980年に入り、時代はレーガン大統領による保守回帰が行われます。
(つまり、古き良きアメリカの復活)
ハリウッドは巨大なコングロマリットに取り込まれ、
映画を知らない経営者たちが牛耳り、商業的な映画が作られていきます。
そのため、映画作家たちはハリウッドから締め出されてしまったのです。
そんな1980年代という時代に、ハリウッドではない場所で活躍していた映画作家たち。
彼らの作品が取り上げられています。
アウトサイダーとなった彼らは、作品にどんな想いを込めたのでしょうか?
著者は言います。
クローネンバーグやリンチやダンテやギリアムなどが描いたアメリカは、七〇年代映画のような現実のアメリカでも、五〇年代映画のような理想のアメリカでもありませんでした。
奇妙なことに、彼らの映画の多くが『素晴らしき哉、人生!』から深い影響を受けているのですが、画面に展開するのはベッドフォード・フォールズがそのままポーターズヴィルと混じりあったような悪魔の世界なのです。
ベッドフォード・フォールズは、『素晴らしき哉、人生!』の主人公が生きている世界。
主人公ジョージのおかげで、街は平和です。
ポッターズヴィルは、「主人公ジョージが生まれてこなかった世界」
金の亡者ポッター氏に、街は牛耳られてしまっています。
平和な世界と、悪がはびこる世界が入り混じったような、悪魔の世界。
なぜ、彼らはそんな作品を作ったのか?
この本を通して、当時の映画作家たちの想いを感じ取ることができます。
本書に一言!
「映画って、こんなに奥深いんだ・・・」
この読みながら、何度も何度も呟いた言葉です。
映画は、間違いなく作家である監督自身の影響を受けます。
つまり、
「監督がこの体験をしなければ、このシーンは生まれなかったんだ」
「この経験があったからこそ、こういうことを伝えたかったのか!」
ということが、この本の中には山のように出てきます。
その度に、その映画のシーンが浮かんできます。
「映画の見方」が分かれば、何度も何度も、1つの映画を味わえることができます。
映画好きにはもちろんのこと、
「最近の映画はつまらない」と嘆いている人にも。
映画の奥深さを知りたい人は、ぜひ本書を手にとってみてください!
併せて読みたい!
この本で紹介されている映画『プラトーン』について書きました!
学生時代、月に100本(4年間で4800本!)の映画を観ていた中谷彰宏さんによる、
映画にまつわる可愛いエッセイをご紹介しています。
古い映画を観たいときに、僕は名画座に行きます。
早稲田松竹、目黒シネマ、下高井戸シネマ、飯田橋ギンレイホール等々。
素敵な名画座について書いてます。