だまん氏のブログ

元不動産屋→現・外資コンサル。人生の先生は本と映画。面白かった本や映画、仕事について、など日々思ったことを好き勝手に書いていきます。

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【解説レビュー】映画『灰とダイヤモンド』体制に抵抗する若者の、苦悩と葛藤を描いた作品

午前十時の映画祭で、『灰とダイヤモンド』を観てきました!

 

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ドイツ軍が降伏した1945年5月8日。

その日の、ポーランドでの1日を描いた作品です。

 

ドイツ支配下から逃れたものの、その後、共産主義の支配下に置かれることとなったポーランド。

街の人たちは、連合軍の戦勝にただ喜んでいますが、

共産化を危惧するマチェクら抵抗勢力は、共産党員の暗殺を画策します。

 

政府に抵抗する若き青年マチェクが、

時代の波に飲まれ、苦悩し、もがき苦しむ姿を描いています。

 

後のヌーヴェルバーグや、アメリカンニューシネマにも多大なる影響を与えた歴史的作品、映画『灰とダイヤモンド』をご紹介します!

 

なお、本記事執筆にあたり、町山智浩さんの解説(見る前編見た後編)を参考にしております。

 

 

物語の背景と簡単なあらすじ 

この映画の舞台は、1945年5月8日のポーランド。

この日、ドイツの降伏によって、ポーランドではドイツの支配がようやく終わります。

人々は歓喜し、街はどこか浮かれています。

 

しかし、ドイツの支配から逃れたものの、

実質的には共産党の一党独裁となり、ソビエト連邦の影響下に置かれることになります。

 

その状況を危惧しているのが、主人公マチェク(ズビグニエフ・チブルスキー)とその上司アンジェイ(アダム・パブリコフスキ)。

彼らは、反・共産主義勢力として、政府に対して抵抗を続けています。

 

ソ連から戻ってきた、共産党員のシュツーカ(ヴォーツラフ・ザストルジンスキ)の暗殺を目論む2人。

帰国を待ち伏せしていた彼らは、車でやって来たシューツカと彼の仲間と思われる2人組を殺します。

しかし、後に人違いの殺人であったことが判明します。

 

計画が失敗に終わった2人は、シュツーカ暗殺のために、戦勝祝賀会が行われるホテルに乗り込みます。

 

体制に対抗するマチェクたちの願いは、果たして成就するのでしょうか。

物語は、時代に抗って生きる若き青年の苦悩・葛藤を描きます。

 

映画のポイント!(※ネタバレあり)

「若者の反抗」を描いた映画の先駆け

後のヌーヴェル・バーグ、アメリカン・ニューシネマ等に代表される、反抗する若者の作品。

それまでのハッピーエンドで、かつハートウォーミングな映画と違い、

現実社会に対抗し、もがき苦しむ若者の苦悩を描いています。

 

本作品は、そういった映画の先駆け的作品だそうです。

 

主人公マチェクは、政府に対して戦いを挑みます。

ポーランド全体が戦勝に浮かれている中で、彼はその波に抵抗します。

 

といっても、強い大義や志があるわけではなさそうです。

彼自身は、どこかシニカルです。

世の中に対して、一種の諦めを抱いているように感じます。

 

結論から言うと、彼の抵抗はあっけなく打ち破られてしまいます。

シュツーカ暗殺こそ成功しますが、それで社会が変わるわけではありません。

彼自身も、軍にあっさり殺されてしまいます。

 

大きな体制を前にしたら、若者の反抗など、取るに足らないものだったのです。

 

映画の最後、1人ゴミ山の上で生き絶えていく彼の姿は、

後のアメリカンニューシネマの主人公たちに重なります。

時代の波に飲まれた若者の苦悩

反抗の1つの象徴が、彼がずっとかけているサングラス。

 

彼は、サングラスは報われない祖国への想いだといいます。

かつて、彼らは敵から逃れるため、地下水道に逃げ込んでいました。

その時に、長く地下にいたため、目が光に弱くなったのでしょう。

 

サングラスをかけるということは、世の中をそのまま直視しないことの象徴です。

 

 

しかし、バーで出会ったクリスティーナと密会する時に、彼ははじめてサングラスを外します。

彼女との時間は、「抵抗」を忘れ、1人の青年として過ごせる時間だったのです。

 

クリスティーナとの出会いによって、マチェクは戦う目的を失います。

何のために戦っているのか。

このまま戦い続けることに意味はあるのか。

「もう人を殺して、こそこそ生きたくない!普通の生活が送りたいんだ!」(著者訳)

という彼のセリフに、彼の苦悩が詰まっています。

 

しかし、彼には使命があります。

そのために、命を落とした仲間もたくさんいます。

 

最終的に、彼は戦うことを選びます。

 

彼はシューツカを無事暗殺しますが、その瞬間、盛大に戦勝を祝う花火が打ち上がります。

まるで、彼の抵抗をあざ笑うかのように。

 

逃げるマチェクは、軍に見つかってしまい、撃たれます。

命からがら逃げますが、最後はゴミ山の上で、

誰に見送られることもなく、1人静かに生き絶えます。

 

青年の反抗が、あっけなく打ち破られた瞬間でした。

 

別の時代に生まれていたならば、クリスティーナと恋愛をして、温かい家庭を築き、仕事をして、普通の幸せを手に入れることはできたでしょう。

 

時代が、彼にそれを許しませんでした。

時代の渦に飲まれた青年の苦悩と戦いは、心打つものがありました。 

象徴的なキリスト像の効果

この作品は、宗教的な象徴が多用されています。

 

映画の始まりは、教会の上にあるキリスト像です。

この世を見下ろすキリスト像から、物語は始まります。

 

その教会で、マチェクは殺人を犯します。

マチェクに射殺された人物は、教会の床に倒れ込みます。

教会の中にあるキリスト像を見て、罪の意識からか、一緒にいた同僚は怖くなって逃げますが、

マチェクは全くの無表情です。

 

また、映画の後半、マチェクとクリスティーナが、破壊された教会で話す場面があります。

そこでは、逆さまになった磔刑のイエス・キリスト像が画面に映ります。

それはまるで、「神の救いなどこの世にない」ことを物語っているようです。

 

神など信じず、この世にシニカルだったマチェクに対して、

神は、救いの手を差し伸べなかったのです。

 

『灰とダイヤモンド』に一言!

マチェクのあっけない最後に、思わず心打たれました。

まるで、僕自身のこれまでの挫折を代弁しているようでした。

  

この映画の公開は、1958年です。

第二次世界大戦後、ポーランドはソ連のもとで、共産主義圏に置かれます。

 共産主義体制の下、ポーランドの経済は悪化し、人々は苦しい生活を余儀なくされます。

その体制を打破し、民主化に成功するのには、1989年まで待たなくてはいけません。

 

ドイツの支配を逃れ、戦勝に浮かれていた人々は、結局貧困を経験することになったのです。

後から歴史を振り返ると、マチェクの抵抗が正解だったのかもしれません。

 

ちなみに、タイトルの『灰とダイヤモンド』ですが、

灰もダイヤモンドも、共に同じ元素記号から構成されます。

 

抵抗が失敗したマチェクは、ただ灰となって散っていったのでしょうか。

それとも、たくさんの灰の下に埋もれた、勝利のダイヤモンドとなったのでしょうか。

 

個人的に、この作品は、決して反政府運動の虚しさを描いているわけではないと感じました。

あえて抵抗の失敗を描くことで、逆説的に、「抵抗をやめてはいけない」というメッセージを伝えているように感じました。

 

何かを変えたいと思った時に、それが成功するかどうかが大事なのではない。

ちゃんと旗を揚げて、行動することが大事である。

そんなメッセージを感じた作品でした。

 

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